定点観測

不登校に対応できない大人の論理

不登校や長期欠席が増えている.
学校はその対応に追われている.
もちろん,学校は子どもたちには学校に来てほしいと思っているから,あの手この手を繰り出すのだが,大きな壁がある.
それは,家庭に対して深くアプローチできない,ということだ.

一昔前は,担任の先生が全家庭を訪問して,家の中で保護者とゆっくり話すのが一般的だった.
親はお茶だけでなくケーキを出したり,時間が押したら晩ごはんまで出す家もあったくらいだ.
しかし今は,玄関で話をしたり,お茶やお菓子も断るらしい.家庭訪問を一部の世帯に限定する学校もあるようだ.
教員と保護者の関係を公平にするためだったり,あるいは家の中や生活の状況がプライバシーとして扱われるようになり,担任教員であっても踏み込めないという理由があるらしい.

とは言え,不登校や長期欠席の児童・生徒の様子は家庭訪問しないと分からない.本人とも会えずに玄関先で保護者に話をして帰らなければならないようでは,学校としてはその子どもの状況を知ることはできない.
状況が分からなければ,その子の今の精神状態や健康状態も分からない.よって,登校を促す支援策も考えられない.

そのままではどうしようもないので,学校はスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカー,地域の社会福祉協議会や保健師さん等と連携していこうとしている.
子どもの心身の健康について専門的な知識を持っていて,各世帯の家庭状況について詳しい情報を入手可能な立場の方々も不登校生徒の家庭にアプローチして,そこから得た情報を学校と共有する,という連携だ.

ただ,ここにもまた壁がある.行政の予算と縦割りの壁だ.
岡山県では,全地域にスクールソーシャルワーカーを派遣しているが,その人数は限られている.とはいえ,市町村レベルでカウンセラーやソーシャルワーカーを養成して配置するお金はないし,学校教育予算は削減される傾向にある.
また,教育委員会と保健福祉部局や自治会との間ですべての情報を共有することは難しい.市町村レベルの個人情報保護条例が厳しいものだと,いよいよ情報共有は難しくなる.

子どもは天使だ.
楽しい授業なら学びたくなるし,学校が居心地の良い場所なら学校に来るはずだ.
一方で,保護者の影響は絶大だ.悪影響を及ぼす保護者から自ら逃れることは難しいし,むしろそれを受け入れてしまうのが子どもだ.そうして精神や健康を崩していく.

前途多難だが,学校が主体的に努力できるところは,学校づくりと授業づくりだ.
それ以外のところは,外部の力を借りるほかない.教育行政の力が試される.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。