定点観測

ジェンダーフリーの次は?先の時代を見通したい!

フォルクスワーゲンを所有するようになって2台目.
新モデルが発売される度にディーラーに遊びに行くのだが,とうとう名車GOLFの8代目「GOLF8」が発売されたので,見に行ってみた.

GOLFの外見(エクステリア)は,GOLF5以降,スポーティさというか,鋭利さを少しずつ増してきていて,GOLF8もその流れを汲んでいる.
しかし,内装(インテリア)のデザインがこれまでと全く違う.どこか,ジェンダーフリー,ジェンダーレス,ジェンダーニュートラルな感じがするのだ.
これまでのGOLFの内装には,「これぞドイツ車!」という無骨さがあった.スイッチらしいスイッチが並び,つまみもしっかりつまめるものだ.全体的に丸さを帯びたゴツゴツさがある.GOLFベースの他の車種にもそれが適用されていて,わが家のトゥーランもそうだ.

しかし,GOLF8は,すべてがつるりんとしている.
コンセプトにも「品質や機能性を犠牲にしない、ひとつ上のシンプルを。」とある.
運転席と助手席の前方のインパネは,その大部分を大きなタブレット(スクリーン)が占めていることもあるのだが,ほとんどすべてのスイッチや調節つまみはタッチパネルになっていて,ヘッドライトの点消灯やエアコンの温度調整すらタッチや指のスライドで行う.

デジタル化の結果,自然とつるりんとした形になったとも考えられるけれど,見た目から無骨さが消え,男性的とも女性的とも言えない,ジェンダーレスな感じなのだ.
LGBTQの社会的な承認やジェンダーギャップの社会問題化が進む昨今,ファッションのユニセックス化やそんな事柄とどこかでリンクしているのではないかと直感した次第.

男性か女性かそれ以外か,という境界は消えつつある.
ファッションにはその傾向が先んじて現れている.例えば,オンワードの新ブランド「IIQUAL」は「誰かが決めたらしさを脱げる服。自分のらしさを着られる服。」をコンセプトにしている.また,セイコーの新ブランド「fusion」は若者の時計離れをジェンダーレスで乗り越えようとしている.

車やファッションは,乗る人・着る人の自己表現だし,自分らしさを自分で創り上げる(エンパワーする)ためのものだ.そういう意味では,もはや「これは男性が買うもの,あれは女性が買うもの」と商品がジェンダーを選ぶのではなく,すべてのジェンダーがすべての商品を選ぶ時代が到来しているのではないかと思う.その先には,インクルーシブな社会が見えてくる.

ただ,多くの人がユニセックスなファッションを身に付け,ジェンダーレスな車に乗り始めたら,全員が似たような姿になるだろう.ジェンダーレスの次はエイジレスとも言われていて,どんどん無個性化へ向かっている.このずっと先には,つるりんとした社会が出来上がってしまいそうだ.

目指すべき次の時代は何だろう?
ジェンダーや世代でカテゴライズされない,一人ひとりの無数の個性に寄り添える商品・サービス開発かしら.
どんな時代がやってくるか,楽しみだ.
スポーツの次の時代も見通しておきたい.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。