定点観測

部活動廃止?(中)ー部活動廃止は世紀の愚策か?悩める学校の救世主か?ー

部活動が地域に完全移行された場合の問題は大きく3つある.
ひとつは,教員の勤務時間外の部活動が学校から地域へ移行される場合,当該学校で活動できていたスポーツ種目をすべて受け入れられる環境があるのか?という問題だ(地域の受け皿足りない問題).
学校体育施設は開放して利用可能だが,用具の外部利用はできるのか?教員以外の指導者はいるのか?教員が兼業として指導する場合の謝金・給与は誰が支払うのか?そこで起こる事故等の監督責任は誰にあるのか?といった問題だ.

二つ目は,部活動が担ってきた学校教育上の,そして学校にとっての機能はなくなっていいのか?という問題だ(学校教育力下がっちゃう問題).
多くの学校では,部活動は競技力向上のためのものというより,生徒指導や生活指導のためのものだ.学校を超えた教員同士のつながりを育むという機能もある.そうした機能がすべて消えてしまっていいか,という問題は,スポーツ庁で始まった「運動部活動の地域移行に関する検討会議」(第1回)の検討の俎上にはまだ上っていない.

三つ目の問題は,移行後の地域スポーツクラブにおいて,青少年教育が学校と同等に担保されるか?という問題だ(地域教育力低い問題).部活動という場が学校内にあったことから,これまでは学校生活全体を通した教育が可能になっていた.それが地域移行された場合,子どもたちを支援するのは地域や民間のスポーツ指導者に代わる.スポーツ指導者は文字通り,スポーツを指導する人であり,子どもたちの成長を全方位で支援することを専門にしていない.「子どもたちは部活動の方が成長していたではないか」と後で嘆いても,部活動は復活しない.

一方で,部活動が課題山積であることは間違いない.

ひとつ目の課題は,部活動の顧問教員は必ずしもその種目の優秀なコーチではなく,しかも教員としての使命感に依存しているということだ(素人教員の使命感に依存しちゃってる問題).ほとんど手当てが支給されない時間外労働なのに出動しなければいけないと思わされてしまう圧力が部活動にはある.管理職による服務命令ができないにも関わらず,だ.多くの子どもたちにとって,高い成長モチベーションが発揮される場で,大きく成長する可能性の大きい場だからだ.
部活動指導に時間が取られ,最も重要な職務である学習指導を支える授業準備や教材研究に時間が割けないという事実もアンケート等から明らかになっている.また,部活動顧問をしたくない,あるいは家庭の事情で難しい,という教員も少なからずいる.そうした教員への部活動参加圧力は,心身を蝕み,退職に至らせるといった悲劇を生んでいる.

もうひとつの課題は,少子化が急激に進む地域の学校では,生徒数が減少して,特に集団スポーツ種目の部活動が成立しなくなっているということだ(種目選択できない問題).スポーツ種目選択の可能性が極めて小さい学校はすでにある.
地域移行すれば種目選択可能性が飛躍的に高まるか,というとずいぶん怪しいと思うけれど,少なくとも学校の中だけでしか活動できない,となると種目選択可能性が下がり続けることはあっても,高まることはあり得ない.

「部活動廃止?(下)ーどう考えるか?ー」に続く.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。