定点観測

部活動廃止?(下)ーどう考えるか?ー

部活動の地域移行,つまり部活動廃止は3つの問題を抱えていると考えられる.
 ・地域の受け皿足りない問題
 ・学校教育力下がっちゃう問題
 ・地域教育力低い問題
一方,学校部活動も以下のような課題を抱えている.地域移行の発端はこれらの問題の解決にあったと言っていいだろう.
 ・素人教員の使命感に依存しちゃってる問題
 ・種目選択できない問題

部活動の地域移行には,教員の働き方改革を進めたい文部科学省や,子どもたちのスポーツ環境(特にスポーツ指導)を少しでも良くしたいというスポーツ庁のねらいとは別に,意外なところからの提言が影響を及ぼしている.経済産業省だ.
経産省では,2020年10月から,「地域×スポーツクラブ産業研究会(座長:間野 義之 早稲田大学スポーツビジネス研究所 所長)」を立ち上げ,地域スポーツの産業化を検討してきた.10回の研究会を経て今年6月,第一次提言を公表した.4つの提言から成るその内容は驚くべきものだった.以下に内容をまとめておく.

提言1 「学校部活動の地域移行」についての大方針の明確化
:学校教育法および学習指導要領によって存在する部活動は廃止し,社会教育法に基づく事業に転換する.そうすることで,受け皿を担いうるスポーツクラブ産業が参入しやすくなる.
提言2 全ての競技で,「学校部活動単位」に限らない「世代別(U15/U18等)」の大会参加資格に転換を
:部活動が地域スポーツクラブになるなら,大会は学校単位ではなく世代別になる.
提言3 「スポーツは,有資格者が有償で指導する」という常識の確立
:ボランティアのスポーツ指導は問題が多く,有資格者による有償指導が望ましく,そうなることでスポーツ指導で生計が立てられるようになる.
提言4 学校の「複合施設」への転換と開放,「総合型放課後サービス」の提供
:学校施設のビジネス利用促進のため,教育委員会管理から首長部局への移管を進める.

地域×スポーツクラブ産業研究会 第一次提言(筆者要約付)

経産省は産業・経済振興を進める機関だから,スポーツの産業化を推進したいと考えるのはごく自然なことだ.しかし,中学生・高校生のスポーツ環境をも産業化しようとする大胆な提言は,まさに新自由主義的な発想の極致だと感じる.
有資格のスポーツ指導者や受け皿になる事業者や地域スポーツクラブが集積している一部の地域で,しかも,そのためのコストを支払えるだけの経済力のある世帯や地域の子どもたちは,従来の部活動よりも高品質なスポーツ環境を享受できるようになる可能性は大きいだろう(それくらい部活動は課題山積だ).その一方で,そうした地域や世帯に生きていない子どもたちは一気にスポーツ難民になる可能性が高い.市場原理に任せることで貧富の格差が拡大したように,スポーツでも格差が拡がる.部活動はスポーツのセーフティネットの役割があったのだと気付かされる.

確かに,これまでの部活動は様々な課題を抱えてきたし,いずれも解決しなければいけないことだ.
しかし,その解決策は,部活動を学校教育から引きはがして地域に移植して,スポーツ産業が参入する可能性を高めることなのだろうか.
例えはあまりよくないが,胃ガン患者(=部活動)に対して,「いっそのこと内臓すべてを取り出して(=部活動を廃止して),ドナーとして他の人に活用してもらう(=地域スポーツ界に手渡す)のはどうですか?買い手はいくらでもいますよ(=ビジネス利用してくれる事業者はいますよ)」と提案しているのと同じではないだろうか.

スポーツ庁の検討会議の開催は全国ニュースになった.しかし,多くの日本国民が経験している部活動がなくなる可能性があるのに騒がれてはいない.
部活動にネガティブな思い出がある人は,「なくてもいいんじゃない?むしろない方が幸せかも」と思うだろう.部活動にポジティブな思い出がある人は,「なくなるのは,今の子どもたちにとってよくないことだ」と考えるだろう.その狭間に,部活動が解決しなければいけない問題が見えてくるはずだ.
部活動を無くしてしまえば問題が解決する,あるいは,子どもたちのスポーツ活動は地域でやれば良くなる,というのはあまりに短絡的だ.まずは,部活動問題をめぐる市民的議論が必要だろう.そして,子どもたちにとってより良いスポーツ環境とはどういうものか,を各地域で見つけ出し,具体的にデザインしていく場が丁寧に用意されなければならないはずだ.少なくとも,岡山県ではそうしていきたいと思っている.

これまでの記事はこちら.
部活動廃止?(上)ー部活動改革の最先端ー
部活動廃止?(中)ー部活動廃止は世紀の愚策か?悩める学校の救世主か?ー

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。