定点観測

”部活” 迷走中.未来を創るのは今だ.

多くの人が「部活」を経験していると思う.
良い思い出も,苦い思い出も,大人になれば青春の1ページだ.
先日閉幕した甲子園(夏の全国高等学校野球選手権大会)に出場したチームは,すべて運動部活動として活動している.

その部活が今,「地域部活動」という新語に揺れている.

この言葉を作ったスポーツ庁は,「生徒にとって望ましい持続可能な部活動と学校の働き方改革の実現に向けて,全国各地域において,休日の部活動の段階的な地域移行や合同部活動等の推進」に向けた休日の部活動を地域で実施することを想定し,研究を進めるために「地域部活動推進事業」を実施している.

その背景の中心には学校教員の働き方改革がある.部活動は学校教員の労働時間の多くを占めており,負担が大きいということだ.その他,少子化に伴う特にチームスポーツ種目の不成立問題や非科学的で経験主義的なスポーツ指導の問題もあるだろう.いずれにしても,スポーツ庁にとって部活動は改革すべきもののようだ.

しかし,「地域部活動」という言葉には重大な矛盾がある.

運動部活動とは,学校教育の一環として,スポーツに興味・関心をもつ同好の生徒の自主的,自発的な参加により,顧問の教員をはじめとした関係者の取組や指導の下に運動やスポーツを行うものだ.これも,スポーツ庁から出されている「運動部活動の在り方に関する総合的なガイドライン(平成30年3月)」に記載されている文言である.

重要な部分は,「学校教育の一環」という部分と「生徒の自主的,自発的な参加」という部分だ.
このことは,学校教育の基本的な指針となる学習指導要領においても,「生徒の自主的,自発的な参加により行われる部活動については,スポーツや文化,科学等に親しませ,学習意欲の向上や責任感,連帯感の涵養等,学校教育が目指す資質・能力の育成に資するものであり,楽校教育の一環として,教育課程との関連が図られるよう留意すること」(中学校学習指導要領・第1章総則・第5学校運営上の留意事項1ウ:【総則編】からダウンロードできるpdfの185頁参照)と記されている.部活動の考え方の基盤として重要な部分だ.

そのような部活動を,土曜日・日曜日と祝日については地域移行していこう,とする試みが「地域部活動」だ.ここでいう「地域移行」とは,「休日の部活動を学校から切り離し,地域のスポーツ活動への移行に取り組む」(スポーツ庁・令和3年度地域部活動推進事業 実施要領より)ということである.

学校教育を学校から切り離して地域移行する,とはどういうことだろうか.
この先にある未来は,どうなるのだろう.

考えられる方向性はふたつある.
ひとつめは,部活動は学校教育の一環ではなくなり,地域スポーツになっていく,という方向性.
ふたつめは,部活動が持っている学校教育上の機能を学校と地域が連携して担う,という方向性だ.

どちらがいいだろうか.ぜひ考えてみてほしい.
そして,何より,今と未来の子どもたちにとって,「部活」はどんな経験ができる場であるべきか,考えてほしい.

先に示した学習指導要領では,続いて「その際,学校や地域の実情に応じ,地域の人々の協力,社会教育施設や社会教育関係団体等の各種団体との連携などの運営上の工夫を行い,持続可能な運営体制が整えられるようにするものとする」と書かれている.
実は,この部分は,平成29年7月に告示され,中学校ではすでに今年度から実施されている新しい指導要領で文言が修正されている.これまでは「各種団体との連携などの運営上の工夫を行うようにすること」とされていたが,「各種団体との連携などの運営上の工夫を行い,持続可能な運営体制が整えられるようにするものとする」と改訂されたのだ.
平成29年の時点ですでに,部活動の持続可能性問題は指摘されていたということである.事態はもう進行中だ.

なお,岡山県も地域部活動推進事業を受託している.議論が始まったところだ.
国が示した政策を無批判に受け入れるのではなく,「より妥当な未来はどちらか?」と問いながら検討を重ねたい.(筆者は当事業を議論する委員会の委員長を拝命している)

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。