定点観測

50年後を生きるのに強心剤はいらない

この時期,国の各省庁から来年度実施したい事業の予算を財務省に配分してもらうための「概算要求」という文書が出てくる.
最終的な予算は仕分けされて減らされることがあるから,来年度の事業予算そのものではないけれど,国がどんなことをしようとしているか,をいち早く知ることができる資料だ.

今年もスポーツ庁から,概算要求が出てきた

競技力向上やスポーツ医科学に関わる事業以外は,スポーツまちづくりと関係してくる事業だ.
それらの内容を,スポーツまちづくり成立の3条件に当てはめて整理してみると,次のようになるだろう.なお,3つの条件は互いに関連するから,決してひとつの条件だけに関わるものではないが,期待される事業のアウトカム(成果目標)を中心に整理してみる.

<スポーツインフラの創出・育成に関わる事業>
・誰もが気軽にスポーツに親しめる場づくり総合推進事業
・アスリートに対するキャリア形成支援の推進
・障害者スポーツ推進プロジェクト
・スポーツによる地域活性化・まちづくりコンテンツ創出等総合推進事業
・体育・スポーツ施設整備
・スタジアム・アリーナ改革推進事業

<社会的ネットワークの創出に関わる事業>
・Sports in Life推進プロジェクト
・地域スポーツ連携・協働再構築推進プロジェクト
・運動・スポーツ習慣化促進事業
・地域運動部活動推進事業
・スポーツオープンイノベーション推進事業

<スポーツまちづくり事業の持続可能性・事業性の確保に関わる事業>
・スポーツによる地域活性化・まちづくり担い手総合支援事業
・スポーツオープンイノベーション推進事業
・スポーツ×テクノロジー活用推進事業

スポーツそのものやスポーツの場・施設やアスリートを地域活性化・まちづくりに活用できるようにするスポーツインフラの創出・育成が比較的多いようだ.また,スポーツ関連組織と非スポーツ関連組織との連携は多くの事業で求められており,社会的ネットワーク体の組成は今や必要不可欠なことだ.
一方,そうした取り組みの持続可能性や事業性の確保についてはあまり触れられていない.いずれも単年度事業だからそこまで踏み込めない,という事情はあるだろうが,基本的には,持続可能なものにする事業構想は各地域・現場の創意工夫に委ねられている,と考えていいだろう.

スポーツ庁の事業推進は,近未来のスポーツの方向性を指し示すものだ.そういう意味で,今何をしたらいいかを考えるヒントになる.
しかし,それはすでに見えている近未来でもある.つまり,時代遅れ寸前ということだ.

補助金とセットで下りてくる国の事業は,いわば今を生き延びるための「強心剤」だ.
まちには明日も10年後も,50年後もある.薬の力を借りずに,地域の中にある自然治癒力や免疫力,成長力を高めておかなければならない.それこそ,スポーツまちづくりの本流だ.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。