定点観測

場所には色がある.漂白するか,混ざり合うか.

ボートレース児島にお邪魔した.
平日の第一レース前から入場したが,すでにチラホラとお客さんがいる.

大学ボート部時代に毎週末泊まって練習していたのが,埼玉県戸田市にある戸田競艇場を含む漕艇場だったから,レースのある週末の風景は馴染み深いものだった.そこら中に外れ舟券と煙草の吸い殻が散乱していて,その夜のまちの居酒屋は悲喜交々の喧騒があった.

そんなイメージのまま,児島のボートレース場に入ったら,古めかしさはあるものの,広大なフロアは整然としていて,静かだ.何より,すべての座席が瀬戸内海を望むオーシャンビューで,眺望だけなら海沿いの高級ホテルのレストランのようだ.

平日だから,さすがに客層は高齢な方々ばかり.
20年以上前の戸田競艇場の喧騒とは違い,皆さん,大人しい印象だ.
それでも,そこにいる人たちが興じているのはギャンブルで,それを象徴するように「ギャンブル依存症ではありませんか?ご相談はこちら」というポスターがあちこちに貼られている.
また,室内のあちこちに喫煙所があるのも,(ヘビースモーカーとしては嬉しい限りだが)客層を反映しているのだろうなぁ,と感じる.

競艇場という空間が「賭け事」ということから帯びるネガティブなイメージを払拭しようと,様々な取り組みやイベントをしているという.
西日本豪雨災害の真備地区の復興支援(体育館の建設など)や新型コロナウィルス感染症拡大防止対策に関わる支援などの他,親子で参加できるスポーツ教室,子どもたちが楽しめる遊具設置やイベント開催,VRボートレース体験,岡山のプロ・スポーツクラブとのコラボイベントなどだ.

そうした努力は,空間を「漂白」しようとするものだと捉えることができるが,ボートレース児島の公共的価値を高めるものにならなければ,ただ地域から白く浮き目立ちする存在になってしまう可能性があるだろう.空間を白くするのではなく,地域社会と同じ色になる必要がある.
地域社会は一色ではなく,彩り豊かだから,その彩りを場内に取り込まなければいけない.そういう意味で,ボートレース児島「主催」のイベントではなく,地域の団体が主体的に取り組むイベントを受け入れる姿勢が求められるのではないだろうか.

収益の一部(といっても多額)を復興支援やコロナ対策支援に投入している取り組みは,まさに公共性を高める取り組みだが,情報発信は十分ではないようだ.まだまだできることはたくさんあると思う.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。