定点観測

循環している地域

岡山県北地域で教職に就くことを目指す大学1年生を連れて,新庄村へ.

新庄村を知る上で,やはり山林という自然に触れないわけにはいかない.
というわけで,森林セラピーに参加させて頂いた.

離島と同程度の空気の清浄さをもつ新庄の山々.深呼吸して身体に入ってくる空気は,細胞液をきれいにしてくれる感覚がある.
自然林には生物のエネルギー循環が見える.冬に向けて葉を落とす木々,微生物に分解された落ち葉,落ち葉を食べる水生昆虫,冬眠に備えて木の実を食べる哺乳類,それらが生成する腐葉土.
人工林は,人間が山を守り続けるために育てている.樹齢100年以上の杉の母樹は,多くの子杉を産み,今も山を育てている.チェーンソーの油を植物由来のものにするなどの国際基準で栽培・伐採された木材は,建材だけでなく様々な商品になっている.新国立競技場で使用された木材の中で,岡山県産は新庄の山のものだけだ.

新庄村では,山を育てるのと同じように,人を育てようとしている.
学校だけでなく,村として子どもたちの教育に多くの資源を投入しているのだ.
資源投入に対して,どれだけの成果が出ているのかを検証するには時間がかかる.しかし,それでも,未来への期待と覚悟をもって教育事業を進めている.村で育てた子どもたちが,いつか村を育てる人材になって還ってくると信じて.

人間は自然と人工の大きな循環システムの中に生きる生物の一種だ.
新庄村にこれから構築が求められる循環システムは,経済循環だろう.
林業や商品開発・販売で獲得した外貨で教育事業が回るようになったら,自然の循環と人間社会の循環というふたつの循環がつながるのではないだろうか.

そういうことをひしひしと感じる村での一日だった.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。