定点観測

スポまちニュース批評:長崎スタジアムシティ

「長崎スタジアムシティプロジェクト」が新年早々に報じられた

通販大手ジャパネットホールディングスが手掛けるこのプロジェクトは,三菱重工業幸町工場跡地など(約74,800㎡)にV・ファーレン長崎(J2)と長崎ヴェルカ(B3)の本拠地になるスタジアム(約2万席)とアリーナ(約6千席)を整備するもので,14階建てのホテル(客室約250室),11階建て賃貸オフィス棟と7階建て商業棟,駐車場(約1,000台)も備えるビッグプロジェクトだ.総事業費は約700億円だという.(公式ページはこちら

施設内外の整備もバラエティに富んでいて,長崎ロープウェイ(稲佐山山頂-淵神社)の駅舎を施設内に設ける構想まであるそうだ.

当初,三菱重工が提案した「『smart & Sustainable』なまちづくりを先導する拠点」という再開発コンセプトに対して,土地活用事業者が公募され,ジャパネットホールディングスグループ(ジャパネットホールディングス,総合不動産サービス大手のJLLとJLLモールマネジメント,竹中工務店)が優先交渉権を獲得して進められてきた.

コロナ禍で先行き不透明な状況にも関わらず,かなり重厚長大なプロジェクトだ.
プロジェクトを実質的に進めるのはジャパネットが2019年6月にグループ会社として設立した株式会社リージョナルクリエーション長崎.ジャパネットの本気度が伺える.

スポーツ庁も「多様な世代が集う交流拠点としてのスタジアム・アリーナ」(令和2年度)に選定していて,お墨付きもバッチリだ.

完成すれば,長崎は一時期,大いに盛り上がるだろう.アウェイサポーターではない一般観光客も立ち寄りそうだ.
施設全体の収益を確保するビジネスモデルがどのようなものか分からないが,単独では採算の取りにくいスタジアム・アリーナにオフィスやショッピングモールを併設させて全体で収益を上げていくというイマドキな構造は(長崎の経済活動が活発に動き続け,ショッピングモールの集客力が高く維持される,という条件付きで)しばらくの間,機能しそうだ.

しかし,他地域がお手本にすることはまずできないだろう.
700億規模のプロジェクトを主導することのできるほど経済力と胆力のある地方企業は極めて希少だ.
そういう意味で,このプロジェクトの成立はジャパネットという希有な企業の存在を前提にしたものであり,国が推進する政策としては不完全と言える.スポーツ庁の選定の政策的意味はほとんどない.(ジャパネットも長崎市も国の政策として推進したわけではなく,長崎のためのプロジェクトだからこれはこれで良い)

むしろ,他の地方都市は「こういう方法が採用できないとしたらどうするか」という出発点からアプローチする方がマトモだろう.一社で抱えきれないなら,地元企業群がオープンイノベーション・ネットワークを構築して広く大きなJVを組むというのも選択肢のひとつかもしれない.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。