定点観測

音楽フェスな紅白,藤井風は岡山の至宝.

大晦日の紅白歌合戦を当日半分しか観ていなくても,今はNHK+で観られる.
仕事始め2日目未明に残り半分を視聴した.

そして,藤井風は岡山県里庄町が生んだ至宝だ・・・とデスクトップPCを前に感動に打ち震えた.最高峰のアーティストの存在がこれほどシビックプライドをくすぐるとは.
その後に続く,あいみょんのほとばしるエネルギー,星野源とさだまさしのSSWとしての高い力量,東京事変のバンドとしての超絶技巧と共振性の高さにぞわぞわさせられてからの,石川さゆりの津軽海峡冬景色はもうワーグナーかベートーヴェンのクラシックの域で,布袋寅泰とMISIAのパフォーマンスの力はどんな宗教の教義よりも心を鷲掴みにして離さない力があった.
そして最後の最後にまた,藤井風はやっぱり至宝だ・・・と思わされ,MISIAが歌い上げた瞬間は,まるで野外音楽フェス最終日のラストステージのようだった.

そんな昨年の紅白だったが,歴代最低の視聴率だったそうだ.
しかし,視聴率が低いと失敗なのだろうか.

放送から4日後にネットで視聴する私のような人間が大量にいるから,そもそもテレビの視聴率が高くなることはあまりないだろうし,スイッチメディア社の調べでは,紅白の占有率(テレビをつけている家庭の中で紅白を見ている割合)は2016年以降で最高だったというから,むしろ成功だったと言えるのではないだろうか.

紅(女性)か白(男性)かという時代遅れの価値観から脱却しつつあることも賛同できるし,何より,大晦日だから許される音楽バラエティというより,ひとつの音楽祭として楽しめた.時折マイクが拾う舞台セットの入れ替えのスタッフの騒々しさもイベントのリアルがそこにあると感じられて,むしろ良かった.あと数年経てば本格的な音楽フェスになっている気がする.(そういう意味で,紅か白かの採点は不要だし,締めの蛍の光もいらない)

紅白歌合戦は模索(迷走?)を続けてきた結果,今のような形になったのだろう.
スポーツイベントはどうだろう.変われるだろうか.
そして,藤井風のような岡山の至宝と呼びたくなるトップアスリートがスポーツ界から生まれるだろうか.至宝の条件は競技成績だけではないような気がする.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。