定点観測

スポまちニュース批評:スポーツビジネスは、街や地域を救えるのか?

スポーツ産業の活性化が国の政策として取り上げられるようになってからというもの,スポーツの近未来を語る記事が増えていて,商売柄,どうしても私のSNSのタイムラインに溢れる.

今日も,「スタジアム・アリーナを中心としたスポーツビジネスは、街や地域を救えるのか?」というタイトルの記事が目に留まった.

このような文章が並ぶ.
「なぜ日本のスポーツビジネスは欧米並みの規模にならないのか」
「ホテルから練習場が見えるので、ファンはホテルで食事をしながら選手の練習風景を見られる」
「お客さん、つまり『観る人』を意識しよう」
「光に色やゆらぎの演出をすることで、試合後の混雑を解消したり、逆にその場にとどまらせたり」
「テクノロジーを使って、より来場者にサービスを厚く提供していく時代になる」

読み進めるたびに,スタジアム・アリーナに集まる人たちは「消費者」なんだなと感じる.
中には,「地元の住民と絆を作り、損得勘定を超えた強いファン基盤を根付かせていかなくてはいけない」という表現も出てくるのだが,損得勘定が論旨の中心の記事にあっては,いささか薄ら寒い.

記事タイトルにみる「ビジネスは街や地域を救えるか?」という問いに対して,消費者を消費行動に駆り立て,地域内消費を大きくすることで「救える」と回答するのは,脱成長を模索し始めているこの時代にあって,もう古い.
地域住民やスポーツファンを「市民」として捉え直すところから,スポーツビジネスの未来が構想できるはずだ.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。