定点観測

”部活動の地域移行”小結論:崩壊に向かわないために

あっという間に1月が終わり,2月が突風のように過ぎている.
定点観測も,初めて間が空いてしまった.

この間,部活動の地域移行についての会議やシンポジウムなどが続いたから,学校教育と地域社会の狭間で揺れる部活動とスポーツを考える一週間だった.この時間で,ひとつの到達点にたどり着いた気がしている.

(これまで使われ続けてきたコトバとしての)部活動は,純粋なスポーツ活動ではない.意図的な教育活動=学習経験としてのスポーツ活動だった.
一方で,地域におけるスポーツ活動は,純粋なスポーツ活動だ.結果として学習経験になることはあるし,指導者が「スポーツを通して子どもたちを育てよう」と考えることは大いにあるが,部活動ほど計画的・組織的に織り込まれたものではない.

現在の部活動の地域移行の論議は,部活動からスポーツ活動の部分だけを地域に転移させようとするものだ.意図的・計画的・組織的な教育=学習の機能の転移は議論の俎上に乗っていない.
地域移行論議が孕む問題の中心はここにある.中学生年代の学びや育ちを無視して議論しているわけだ.

加えて,部活動が(様々な課題を抱えつつも)日本のスポーツ振興の基盤を成してきたことも無視されている.
清水(2021)『子どものスポーツ格差』(大修館書店)によれば,地域スポーツクラブ加入率はそうした親の社会経済的条件と正の相関が確認されている.つまり,子どもたちの地域スポーツへのアクセスは経済格差と連動するということだ.
一方で,部活動の加入率は親の年収や職業と関係していないことも明らかになっている.部活動は公教育システムの中に位置づくことで,家庭の経済格差を縮減する機能を持つセーフティネットとしての役割があったということだ.

つまり,部活動が地域移行されることによって,スポーツを通した子どもたちの学びや育ちの機会を保障してきたセーフティネットが消える恐れがあるのだ.

(地域移行はまだスポーツ庁内の検討会議で議論中だが)「御上の御威光」として避けられないとしたら,せめて,地域スポーツ環境を,子どもたちが学び育つ場にする必要があるし,経済格差と連動しない公平な機会保障を確実にしなければいけない.

そのためには,学校が保有している教育力を地域に浸透させる必要があるだろう.
浸透させるには対話と経験共有しかない.地域スポーツ指導者,地域団体関係者,参入してくる民間事業者が学校教員と協議・連携するための対話場と協働場が必要だ.

その遠い先に,学校を含む地域全体で子どもたちを育てる最広義のコミュニティスクールを構想することができるならポジティブだが,今のままの地域移行では望むべくもない.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。