定点観測

全仏OP騒動から,まちを思う

大坂なおみ選手の記者会見拒否,棄権のニュースがメディアを賑わせている.
テレビでもネットでもすでにあれこれ議論されているから,ここでごちゃごちゃ言う必要はないと思う.

プロ・スポーツはそれがビジネスとして成立しているからステークホルダーは多様で,だから登場する立場と言い分(論理)は多様だ.
マスメディアに登場するコメンテーターの発言も,ネットでの個人の発信も,いずれかの立場に立つもので,どれかひとつが絶対的に正しく,その他は間違っている,なんてことはない.

しかし,そう考えると,「じゃあ,どう解決するの?」ということになる.

「みんな違って,みんないい」は美しい言葉だが,問題を解決するために乗り越えないといけない重要な考え方を文の中に隠している.「違うことを認め合う」ということと「何がいいことかをみんなで見つける」ということだ.

-大会関係者たちは選手たち本人と対話してきたのだろうか.
-取材者たちは選手たちの立場を理解し受け入れようとしてきただろうか.
-選手たちは自分たちの精神を削るビジネスの論理を,変えられない敵の事情と考えてはいないだろうか.
-マスメディア関係者はすべての登場人物に取材して報道しただろうか.
全仏騒動の登場人物たちは,互いを知り,認め合い,みんながハッピーになる未来を見つけようとしてこなかったのではないだろうか.

結局のところ,相互理解と未来づくりのための対話が必要だ,ということだろう.
「話せば分かる」も美しい言葉だが,実際は難しい.問題は「何を,どう話すか」だろう.スポーツビズ界には,関係者の対話をデザインする機関や人材が必要だ.(スポーツ仲裁裁判所に行く前に)

スポーツまちづくりも同じだ.対話で始まり,対話で動く.
社会ってそういうものだろうと思う.
対話のデザインは機会があれば,また.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。