定点観測

観戦下手の観戦論② 応援するのはファンではない

(前回書いたように)スポーツ観戦すると疲れる性分だから,スポーツ観戦することはあまりない.
それでも,仕事の都合で会場に行く必要があったり,試合観戦以外に見ておきたい状況(興味深いイベント等)があったり,特別にお呼ばれしたら,気合いを入れて観に行くことになる.

足が遠のくのは,疲れるからということもあるのだが,むしろそれ以前に,ひと試合ひと試合の勝敗に関心が向かない,ということが大きい.
私の仕事(=趣味)の関心の中心は,チームや選手のあれこれにはなく,クラブの地域密着や社会的インパクトなどにある.クラブ経営のさらに周縁のことと思われている領域だ.

しかし私は,クラブと市民の関係構築こそ,選手強化やチームの活性化,ひいては試合の流れを決めるのではないか,と考えている.

クラブは,地域の中の団体(民間企業)のひとつに過ぎない.しかし,スポーツが本来的に抱える公共性とクラブが掲げる理念の公益性から,その存在は地域内において特別な意味をもつ.
この特別な意味に対して,チームの勝敗やリーグ内順位はほとんど影響を与えない.むしろ,与えてしまってはいけない.クラブ経営上,ほとんどマネジメントできない勝敗や順位によってクラブの存在価値が決まるとしたら,クラブの存在価値は「時の運」になってしまうからだ.(ちなみに,2001年以降のJ1全試合を通算すると,鹿島アントラーズが最も高い勝率を残しているそうだが,その勝率は52.0%だ.半分弱は負けている)

私の仮説では,その逆だ.地域,つまり市民にとってクラブの「特別な意味」が大きくなれば,(勝率や順位が上がるということはないだろうが)いい試合になるのではないか,ということだ.
では,市民にとっての特別な意味とは何だろうか?

地域は,市民生活が営まれる「地理的な空間」という捉え方と,市民が暮らす価値や機能を見出す「意味的な空間」という捉え方ができる.クラブのホームタウンも両方の意味を持つことになる.

クラブが商圏として設定するホームタウンとは「地理的な空間」を指す.どこでチラシを配るのか,どこでスポンサー営業をするのか,ということは基本的には行政上の市区町村単位で設定されることが多い.
それとは別に,クラブの経営理念やビジョンを浸透させる対象としてのホームタウンとは,クラブがここにあることの価値や機能を市民に感じてもらうという意味で「意味的な空間」を指している.

クラブが「地域に夢や活力を与える」と言う時,それは,地域生活(家庭生活,職場生活,学校生活などを含む)に対する市民の前向きな価値意識(愛着や誇りなど)や期待,貢献意欲などを喚起する,という意味と捉えることができる.つまり,クラブは,市民による地域に対する価値づけを喚起する存在と(実際にできているかどうかはさておき)言えるだろう.

市民にとって,地域の価値づけを高めてくれるクラブはまさに「特別な意味」を持つことになる.クラブの存在が,「このまちが好きだ」,「暮らし続けたい」,「このまちをもっと魅力的なまちにしたい」というポジティブな思いや願いの源になっていたら,市民にはクラブに対する「おかげ様の意識」(贈与論的には負債意識,反対給付の義務とも言う)が芽生えるだろう.この意識は,クラブへの貢献意欲に変わる可能性を持つはずだ.つまり,選手やチームへの応援だ.

しかし,一見「返礼」に見える応援は,もう少し複雑だろう.
クラブによって育まれた地域に対する価値意識等は,まずは地域に返る.地域に対する様々な形での貢献や,他地域市民に対する自慢(個人的なシティ・プロモーション),今後の定住可能性の高まりなどだ.
市民は,この地域貢献のひとつのスタイルとして,選手やチームを応援するようになるのではないだろうか.
その時,勝敗やリーグ内順位は重要ではなくなる.市民にとっては,地域に貢献することが選手・チームを応援することであり,そこに勝敗や順位が介在する余地がないからだ.
この考え方に立てば,観戦に来てくれる人たちは,スポーツを消費する「ファン」ではなく,地域を大切に思う「市民」である必要がある,ということになるだろう.言い換えれば,クラブが増やすべきは,ファンではなく市民だ,ということだ.

しかし,まだひとつ問題が残っている.
地域貢献のひとつとして勝敗や順位に関わらず応援してくれる市民がいてくれることは,なぜ選手強化やチームの活性化,試合の流れを決めると言えるのか,という問題だ.
そのことについては,次回へ.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。