定点観測

スポーツづくりはまちづくり

スポーツには種目によってそれぞれ「包容力」があると思う.
経験の有無や性別,年齢,障害の有無を超えて誰でもできる種目もあれば,一定の身体的なサイズや能力を要求するものがある.

久しぶりに卓球をしてみて,ラージボール卓球の包容力に驚いた.
とりあえずラリーが続くのだ.
ラージボールは,通常の卓球ボールよりひと回り大きくて軽い.その分,空気抵抗が大きく働いて,よほど大きく打ち損じない限り,相手コートに落ちてくれる.

ラージボール卓球は,文字通り,大きいボールを用いるというルール更新が施された卓球だ.それに加えて,ラケットのラバーはどちらも粒々のあるものが貼ってあり,ボールの回転に影響を受けずに返球することができるようになっている.これは,卓球で重要になるボールに強い回転をかける技能の効果を小さくすることで,技能差を埋める働きがある.ボールとラケットに工夫を施すことで,誰もが楽しめるようになっているのだ.
現状では,上肢が動かなければできない仕様になっているが,少なくとも公式ルールの卓球と比べれば,その包容力は相当大きい.

パラスポーツも,スポーツとしての包容力が極めて大きいスポーツ群だ.ボッチャに至っては,重度四肢障害があってボールを投げることができなくても競技ができるようにルールが設計されている.車いすバスケや車いすソフトボールは,健常者も競技に参加できる.パラスポーツは障害者のためだけのスポーツではないのだ.

世の中には,私の知らない包容力の大きいスポーツがまだまだあるはずだ.
既存ルールに少し手を加えたり,施設や用具を改良したりすれば包容力が一気に大きくなることもあるだろう.
そうしたスポーツの包容力を拡張・開発して,誰もがスポーツに参加できる状況をまちに生み出し,交流や連携,共創の可能性を高めることも,スポーツまちづくりにつながるスポーツインフラ開発のひとつだろうと思う.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。