定点観測

音の中のスポーツ

周りは耳をつんざくほどの蝉の大合唱だ.THE夏.
そんな中,羽化したての蝉を発見.
昆虫にあまり関心のない幼少期だったから,生きた蝉の幼虫も見たことなかったし,羽化したばかりの姿も初対面で,もう大人なのに,ちょっとした感動だった.

そのそばには陸上競技場のサブトラックがあって,夏休みの中・高校生や大学生の陸上部と思しき人たちが大勢練習している.BGMが蝉の鳴き声なのは,夏らしさのひとつだ.
これが,9月も後半になれば,虫の涼やかな鳴き声に変わる.スポーツは季節の音に包まれている.

無観客のオリンピックのネット中継を観ていると,多くの種目の会場で音楽が流されていることに気付く.
選手を鼓舞するような音楽,休憩時にリラックスさせようとする音楽,白熱や緊迫を増幅させるような音楽,様々な音楽が流れている.フリースタイルBMXやスケートボードに至っては,本番の滑走中でもイヤフォンを付けて音楽を聴いている選手がいる.
まちなかをランニングする人も,多くがワイヤレス・イヤフォンを着けて走っているし,今や,スポーツをする上で音楽は欠かせない要素のひとつだ.

谷口(2000)によると,BGMには①聴覚的マスキング効果,②弛緩・鎮静効果,③喚起・覚醒効果,④感情誘導効果,⑤イメージ誘導効果,などの働きがあるという.
オリンピック会場で流れる音楽には,流す場面によってこれらの機能が使い分けられていると考えられる.BMX滑走中の選手が聴いている音楽は,おそらく喚起・覚醒効果やイメージ誘導効果があるものが選曲されているはずだ.

夏の蝉の大合唱にも,スポーツの秋の虫の音にも,何らかの効果があるはずだ.
自然の中の音に包まれるスポーツ空間というのも魅力的だと思う.
そういう意味では,ノイズキャンセリング機能のあるイヤフォンより,骨伝導のイヤフォンの方が楽しいかもしれない,とふと思った.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。