定点観測

パラを迎えるためにオリを送る,お盆だけに③:問題を遠くからみる(下)

昨日の「パラを迎えるためにオリを送る,お盆だけに③:問題の捉え直し(上)」に続いて,以下の東京オリンピックのガバナンスやマネジメントに関する問題について考えたい.
・新国立競技場の設計・建築や公式エンブレムのデザインに関わる混乱
・組織委員会会長(当時)の女性蔑視発言とその後任をめぐる混乱
・開閉会式の演出チームをめぐる混乱とその結果としての開閉会式の内容に対する批判
・感染拡大を防ぐはずのバブルの管理体制の甘さ
・スタッフ用の弁当の廃棄が20会場で13万食にも及んだ

これらの問題は,押しなべてしまえば,東京オリンピックの基本理念やビジョンの具現化に関する不全によるものだろう.「神は細部に宿る」ような,どんな業務やコミュニケーションにも芯(理念やビジョン)の通ったガバナンスとマネジメントになっていなかったと思われる.しかし,大会運営とその組織体制,日々の仕事の様子などはほとんどレポートされておらず分からないから,想像の域を出ない.

東京オリンピックは,東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会(以下,組織委)によって準備・運営された.組織委は,国際オリンピック委員会(IOC)と日本オリンピック委員会(JOC)と東京都の3者間の契約の下,JOCと東京都によって設置された組織体で,準備・運営に関わる事業を実施している.
職員数は開催前でも約4,000人で,約3割が東京都,約2割が国や自治体,約2割が民間企業やスポーツ団体からの出向者だ.寄せ集めの超大規模組織,ということになる.

一年延期もあったし,それに伴って当初の晴海トリトンスクエアからの引っ越しまで余儀なくされたし,ギリギリまで開催の可否に揺れていたから,組織委の業務が通常考え得る状況でなかったことは想像に難くない.そんな組織委では,どのようなコミュニケーション環境だったのか,どのようにして意思決定の仕方がなされていたのか,どのような組織風土だったのか,ということは全く分からないが,発生した問題の原因はおそらく組織委のコミュニケーション環境の内部にあるはずだ.

また,組織委のトップ層や東京都とJOCの内部で,東京オリンピックの開催の意義やビジョン,ゴールイメージはきちんと育てられ,共有されていたのだろうか.そして,最終的な責任はどこにあったのだろうか.東京オリンピックの開催をめぐる協働体制全体をデザインし,ファシリテートし,ガバナンスするのはどの組織だったのだろうか.

パラリンピック閉幕後も組織委の仕事は続くから,様々なことが明らかになるのはもう少し先になるだろう.
招致決定から東京オリパラの締めが終わるまでの,すべての組織委の業務遂行は記録されているはずだ.どこかのマスメディアが特番用に密着取材しているのではないだろうか.そう願いたい.そうでなければ,発生した様々な問題の原因が明らかにならないどころか,問題すらなかったことにされる.橋本組織委会長が「全体として大きな問題が起きることなく閉幕の日を迎えた」とオリンピックを総括した.すでに問題をなかったことにしようとしているようにも見える.

問題が発生した原因を明らかにするのは,犯人捜しのためではなく,大規模スポーツイベントのガバナンス&マネジメントのあり方を考えるための重要な知見を収集するためだ.問題は未来に向けた課題と考えたい.

次回は,「パラを迎えるためにオリを送る,お盆だけに④:スポーツの再発見」と題して,東京オリンピックで生まれたポジティブな側面を考えていきたい.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。