定点観測

コロナ禍で止まるのはスポーツではなく,脆弱なスポーツライフ

新型コロナウィルス感染拡大が止まらない.
これまでは,スポーツの試合の感染リスクはさほど大きくなかったが,感染力の強いデルタ株に置き換わるにつれて,試合だけで感染するケースが増えてきているようだ.こうなると,練習も試合もすべてストップさせる,という判断になりそうだ.
コロナ禍で「スポーツを止めるな」というキャッチフレーズが生まれたが,高い確率で感染してしまうのなら,そんな言葉は無力かもしれない.

しかし,ふと思う.

高い感染リスクに脆弱なのは,スポーツそのものなのではなく,ある特定のスポーツライフなのではないか,と.
他者と接触する可能性の高い種目だけをしている人は,ウィルスには弱い.感染力の強いウィルスが蔓延すれば,スポーツライフはストップする.
一方で,他者と接触しない種目をしている人は,感染拡大とは無縁だ.キャンプやトレッキングなどのアウトドアアクティビティはその代表例だ.

もし,多くの人たちが,感染リスクの高い種目と極めて低い種目の両方を自らのスポーツライフに取り入れることができていたら,「今はこっちのスポーツをしていよう」ということができるはずだ.つまり,スポーツ種目をひとつしか選択しないということ(択一式のスポーツ選択)がウィルスに対する脆弱性を生んでいるのではないか,と思うのだ.

「「五輪に命をかける」の怪②—競技スポーツの精神性(前)(2021.07.21)」でも書いたが,「道の精神」はスポーツに深く浸透している.道は一本であるべきで,いろいろなスポーツに手を出すことは遊び半分で不真面目だという認識があるのだろう.定期的に趣味で行う競技性の高くないスポーツ活動であっても,複数種目に及ぶ人はさほど多くないと思われる.

コロナ禍を機に,感染リスクの低いスポーツを始めてみたらどうだろう.
学校の運動部活動も,集団スポーツと個人スポーツに加えて,季節によってフィールドを変えるアウトドア・アクティビティや文化活動の両方に参加することを奨励してもいいかもしれない.
コロナ禍で「スポーツを止めるな」と訴えるのではなく,外部環境に適応できるように「スポーツライフを拡げろ」と訴える方が前向きだ.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。