定点観測

パラリンピックから感じたいこと

東京パラリンピックをきっかけにして,障害者差別をなくし,障害者の生活を変革することを目指す運動が始まっている.国際パラリンピック委員会(IPC)が先導するもののようだ.
世界人口の15%を占める世界の12億人の障害者の生活を変革することを目指す,ということで「#WeThe15」と名付けられている.(公式ホームページはこちら

WeThe15は,スポーツ,人権,政策,コミュニケーション,ビジネス,アート,エンターテインメントに関連する組織が結束して始められた世界的な運動であり,人々の態度を変え,障害者の機会を増やし,モビリティとアクセシビリティを向上させるためのものだ.

パラリンピックは,障害者アスリートが出場するスポーツ大会だから,障害者の生活に注目してもらうチャンスだ.
こうした運動は大いに展開されるべきで,開催国である日本国内からももっと生まれてほしいところだ.

一方で,障害者だけを取り上げることで,障害と健常の差異は一層強調されてしまう.
障害者の生活を変革するには,社会全体でその必要性を共有する必要があり,そのためには,障害者と健常者がともにこのまちで暮らしている,まちを共有していると実感をもって感じられる必要がある.
今のまちは,障害者にとって暮らしにくいカタチになっている.WeThe15の問題意識もここにある.暮らしにくいまちには出てきにくい.ともにこのまちで暮らしているという実感はまだ持てない状況だ.
障害者が暮らしやすいまちは,すべての健常者にとっても暮らしやすいまちになるはずだ.それがユニバーサルデザインの考え方であり,その先に,障害者と健常者がひとつの障壁もなくともに暮らすインクルージョンな社会が見えてくる.

パラリンピックは,障害の度合いを厳しく区別して公平性を確保する競技性の高いパラスポーツ大会だが,パラスポーツは本質的にユニバーサルデザインで,あらゆる障害に適合するようにルールや用具が開発されたものだから,健常者にとっても有益だ.パラスポーツは,障害者と健常者が競い合うことができるインクルーシブなスポーツと言える.(このことについては「スポーツが本当は見せたい未来(2021.07.19)」にも書いた)

東京パラリンピックをきっかけにして,わたしたちのまちの障害者の生活について思いを馳せるとともに,パラスポーツのような,障害者と健常者が「いっしょに〇〇する」ということができる機会やまちのあり方を考えたいものだ.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。