定点観測

パーソンズIPC会長 開会式スピーチ全文(日本語訳)

2021年8月24日,東京2020パラリンピック競技大会開会式でのアンドリュー・パーソンズIPC会長のスピーチが素晴らしかった.
このスピーチの言葉の力を残しておくために,書き起こしておく.

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天皇陛下,アスリートの皆様,菅義偉内閣総理大臣,小池百合子東京都知事,橋本聖子大会組織委員会会長,パラリンピック・ムーブメント・フレンドの皆様,世界中のスポーツファンの皆様,こんばんは.そして東京2020パラリンピック競技大会へようこそ!

ここまで来られたことが信じられない気持ちです.
多くの人がこの日が来ることを疑問に思っていました.多くの人が不可能だと思っていました.
しかし,大勢の方々のおかげで,地球上でもっとも変革を起こす力のあるスポーツの祭典が始まろうとしています.
日本政府,東京都,東京2020組織委員会,国際オリンピック委員会は,大会開催を疑うことなく,国際パラリンピック委員会とともにたゆまぬ努力をしてくれました.

東京・日本の皆様,アスリート,関係者ならびに日本国民のため,安心安全の大会を開催できると確信してくださったこと,心から,ありがとう!日本!ありがとう!東京!

皆様の信頼とおもてなしに応えます.
日本にパラリンピック大会のレガシーとして,障害のある人々に対する新たな認識を残します.
それにとどまりません.
世界全体を変えたいと思います.
そのため,IPCと国際障害同盟が主導し,WeThe15キャンペーンを立ち上げました.今後10年にわたり,WeThe15は,何らかの障害がある世界人口の15%の人々への見方を変えるべくグローバルに挑みます.20の国際機関,市民団体,企業やメディアの支援のもと,世界12億の障害のある人々を共生社会実現(インクルージョンアジェンダ)の中心に据えます.

パラリンピック競技大会はまさに変革のプラットホームです.
しかし,4年に一度では十分ではありません.
よりよい共生社会(より包摂的な社会)を創れるかどうかは,それぞれの国で,まちで,コミュニティで,私たち一人ひとりが自らの役割を日々果たすことにかかっています.

人類が団結してコロナウィルス感染症と戦うべき今,その調和を乱そうと望む者もいます.
わたしたちをひとつにするものを見過ごし,違うところばかりに目を向けることは,差別を引き起こします.そして私たち人類がともに達成できるものを弱めていきます.
違いは強みであって弱さではありません.
よりよい形での再建を目指す中,ポストコロナの世界がすべての人に機会が開かれる社会でなければなりません.

大会が延期された去年,パラリンピック・アスリートは希望の光となりました.
不確実性の影が差す中でも,決してトレーニングを辞めませんでした.
夢を追い続け,信じ続けたのです.必ず今夜この競技場に立てる,と.
彼らは計り知れない力,良いことを巻き起こす力です.
彼らの打たれ強さは多くの人に力を与えました.しかし,彼らだけで成し遂げたわけではありません.彼らの後ろには,各国・地域のパラリンピック委員会,国際競技連盟が支え,そして導いて,人類が経験したことのない事態を乗り越えようと努めたのです.これがパラリンピック・ムーブメントの力です.力を合わせ,アスリートが輝ける最高の舞台を用意したのです.

パラリンピアンの皆さん!
皆様はここに来るために,血と汗と涙を捧げました.
今こそ,世界に,皆様の技,力,強い意志を示す時です.
もしも,世界が一方的にあなたたちのことを傷つけたことがあるなら,今こそそれを覆すときです.
自分はチャンピオン,英雄,友情,仲間,ロールモデル,あるいは一人の人間だと.
皆様は人類最高の姿です.そして,皆様だけが自分たちは何者かを決めることができるのです.
皆様は,本物です.
皆様は,素晴らしいのです.
皆様は,一番の高みを目指すと決められました.
皆様の活躍は,皆様の運命を変えるかもしれません.
でも,何より大事なことは,12億の人々の人生を永遠に変えるだろう,ということです.
それがスポーツの力です.
人々の行く末と社会を変革する力です.
変化はスポーツから始まります.
そして明日から,パラリンピック・アスリートたちは再び世界を変えていくでしょう.

どうもありがとう!
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※NHKでの同時通訳をベースに,国際パラリンピック委員会公式ホームページの開会式レポートを参照して筆者が書き起こした.スピーチの原文が手元にないため,誤訳の可能性があります.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。