金メダルを取った種目は人気が出る?
東京2020パラリンピックでボッチャ個人(BC2)で杉村英孝選手が優勝したことで,岡山県ボッチャ協会が貸し出しているボッチャセットが大好評らしい.
世界一になったパラリンピアンは,残された身体機能をトレーニングによって向上させ,誰よりもその種目に必要な技能を高めた超人だ.超人の誰にも真似できない類稀なる技能の発揮は,驚嘆を呼ぶし,高度な競い合いは感動的だ.
しかし,この驚嘆と感動がボッチャセットの大好評を生んだのだろうか.
もしそうだとしたら,オリンピックで金メダルを取った種目は軒並み大人気になって,習い事として始める子どもたちが増えるはずだ.オリンピックのたびにメダルを量産する柔道や体操などは大盛況になり続けているはずだが,そんな状況にはない.一方,同じように堀米雄斗選手が金メダルを獲得したスケートボード(ストリート)は人気が出ているようだ.
オリンピック・パラリンピックの競技成績がいまいち人気に繋がらない柔道や体操と,人気に繋がりそうなボッチャやスケートボードの違いはどこにあるのだろう.
おそらくそれは,次のふたつのことが感じられるかどうかの違いだろう.
楽しそう
と,
わたしでもできそう
だ.
これまでスポーツ界は,ピラミッド型の普及・強化の考え方を採用してきた.
ピラミッドの頂点を高くすれば裾野が広がる,というものだ.(その逆の,裾野を広げれば頂点も高くできるということとセットだ)
オリンピック・パラリンピックでメダルを取る姿を多くの国民に見せられれば,その競技を知る人が増え,その結果,する人が増え,生涯スポーツ社会の実現にも寄与できる,という考え方が,国家予算をスポーツ強化費の捻出の根拠の基礎にある.
しかし,これまで膨大な強化費が投入されてきた柔道や体操は,この考え方が妥当ではないことの反証例になってしまっている.一方,強化費があまり投入されていない種目で広がりの兆しが見えている.
この現象は,スポーツの普及は,強化によって進むというより,「楽しそうなスポーツで,しかも,わたしにもできそう」という想像を積み重ねることの方が相対的に効果が高いことを示しているのではないだろうか.
柔道は厳しくてきついイメージがある.体操は難しそうだ.
一方,ボッチャは簡単そうで,スケートボードは何より選手たちが楽しそうだった.
これからのスポーツの普及と強化のあり方を考え直すいい機会かもしれない.