定点観測

パワーク~季節と仕事の幸せな関係~

自宅から車で15分ほどの水辺公園で仕事をすることがよくある.
ノートPCにSIMカードを内蔵させているから成せる業だ.
ワーケーションというほどのものではないから,パーク+ワークで「パワーク」とでも言うことにしよう.

自然の中で仕事していると,四季を身体で感じることができる.
夏から秋への移ろいが日々,目の前に拡がる.

少しずつ黄色に紅葉し始めている桜の葉.
水辺に咲き始めている彼岸花.
日ごとに増える蜻蛉と大きくなるコオロギの鳴き声.
柔らかくなっていく雲と青空.
そんな中で書く文章も,もしかすると季節的な移ろいがあるかもしれない.

政治史学者の御厨貴氏は,総理大臣経験者のライフヒストリー研究をする際,年4回,季節ごとにインタビューをするらしい.人生を4つほどの時期に分け,幼少期から政治家を目指すまでの道筋を春に聞き取り,政治家として若々しい熱量に溢れていた時期を夏に聴き取る.そして政治家として円熟味を増した頃までを秋に聴き取り,そして総理大臣になって政界引退に至るまでを冬に聴くという.
御厨氏によると,四季を人生の移ろいになぞらえて聴く目的は,本人が人生のその時々の気分を季節の空気や風景と重ねて語りやすくするためだけではないという.総理大臣にもなると,墓場まで持って行かないといけない秘め事があって,自分自身のライフヒストリーの語りを,秘め事を隠すための嘘で固めてつじつまを合わせようとする.3か月に一度の頻度にすることで,そのつじつま合わせをしにくくするらしいのだ.何とも面白い話だ.

ワーケーションやブレジャーというワードが流行っている.
生来,コロナ禍における社員の分散と,苦境に立たされたツーリズム関連事業者の救済を目的に生まれたものだ.
しかし,仕事の流れと季節の移ろいが,その時々の身体や精神のリズムを媒介にしてつながっているのだとしたら,有名観光地やレジャー&アクティビティを目指すのではなく,仕事内容にふさわしい季節を選んで,その季節が豊かに感じられる場所に行った方が良さそうだ.

パワークは季節と仕事を日常的につなげてくれる.
春は何か新しいことを始めたくなる.夏は爆発的に仕事量を増やしてせっせと動きたいし,秋には落ち着いて仕事の成果を確認したい.そして冬はもっとじっくりと知識とエネルギーを溜め込みたい.
日常的に自然の中にいることで,四季の変化はグラデーションとして感じられるようになる.パワークは仕事バイオリズムを安定させるものかもしれない.ある意味で,ワーケーションやブレジャーよりも贅沢だと思う.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。