定点観測

元アスリートは遊べない?

大学では,講義だけでなく,スポーツの実技を伴う授業を毎週している.
基本的には,学生たちが身体と頭脳を使って学ぶのが授業だから,指導者である私が身体を動かす必要はないのだが,ついつい,授業前や学生の休憩中に動いてしまう.

昨日も,ベースボール型ゲームの教材開発を目的にした実技授業だった.
ついつい,野球部の学生を相手にキャッチボールを始めてしまった.

次第に投げる距離も遠くなり,球速も上がる.
重心,体重移動,身体の捻りと解放,肩甲骨から上腕骨,尺骨・橈骨,指先までの鞭動作のボールへの伝達,それに対する左腕と左手の動き,ボールへの指のかかり,ボールの回転数・・・考えることが増えていく.

そして,夜には肩と肘が痛くなった.

元野球選手ではないし,これから野球選手を目指すわけでもないのに,なぜかトレーニングするモードに入ってしまうのは元アスリートの性だ.キャッチボールしながら「なぜ,こんなことしているんだろう?」と自分に問うのだが,止められない.そして,筋肉や靭帯,腱にダメージを受けてから,「もうアスリートじゃないんだ」と再確認する.こういうことが年に10回はある.

競技スポーツから得られる心理的な集中や自己内対話の快楽は,麻薬から得られる集中力や快感に近いのではないかと思う.競技生活から離れて20年が経っているのに,そして肉体の機能は大きく低下しているのに,ついついトレーニング・モードに入ってしまうのは,他のことでは代替できない集中や快楽を得られるからだろう.

本来は,トレーニングではなく,キャッチボールそのものを楽しむだけでいたいのだが,まだよく分からない.それが分かれば,スポーツを趣味にすることができるはずだ.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。