定点観測

星野仙一記念館閉館ースポーツインフラを維持するミュージアムー

岡山県倉敷市にある「星野仙一記念館」の閉館が決まった.14年間で延べ50万人が来場したという.

とてもお世話になっている方がこの記念館の運営主体のおひとりで,よくお話を聴いていたので,他人事とは思えず,(にもかかわらず,一度も行ったことがなかったから)閉館までに必ず観に行く.

スポーツミュージアムは,あまり一般的ではないけれど,スポーツ文化から社会を見通す上でとても重要な施設だ.以前,仏ローザンヌに出張した際に,オリンピックミュージアムを訪れたことがある.オリンピックの歴史だけでなく,スポーツをめぐる人間や社会の変化を感じることができた.

スポーツは人々の価値観や科学技術の変化との関係で変化し続けている.そして,スポーツによって人間の身体や社会の変容を促すこともある.そのことを踏まえて,來田(2020)はスポーツミュージアムが,「人間の身体やパフォーマンスに関わる多角的な記録をコンテンツとすることによって生まれる可能性や時代と社会の違いを越えた身体経験を継承するツール」になる可能性があると指摘している.そして,特に,スポーツ映像等をデジタル化してアーカイブすることによって,スポーツを通じた教育に「異なる時代や社会における歴史的身体経験を追体験し,共有し,継承するという新しい挑戦が可能になるかもしれない」と述べている.

スポーツ庁も,東京2020オリンピック・パラリンピックの開催決定を受けて,2017年度から「スポーツ・デジタルアーカイブ構想調査研究事業」を実施している.すでに「基本的な考え方」や調査研究報告書も公開されている.

星野仙一記念館には,沢村賞や正力賞のトロフィーや盾,ドラゴンズやタイガース時代に身に着けていたものなど,氏にまつわる実物資料が展示されている他,幼少からの足跡を辿るVTRを観ることができるようだ.

閉館後,収蔵物は倉敷市に寄贈されるそうだ.その後,どのように展示されるのか分からないが,星野仙一氏という岡山・倉敷を代表するトップスポーツパーソンから後世のわたしたちが学べるように,実物資料を含めてデジタル化され,記念館に展示されていない氏の動画や音声,書かれた言葉などを閲覧できるようにしてほしい.
氏は故人だが,亡き後も岡山・倉敷ひいては日本のスポーツインフラとして活躍して頂くためには,デジタルアーカイブと記念館に代わるミュージアムが必要だろう.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。