スポーツと人

地域におけるプロスポーツの「価値」とは。Bリーグ島田慎二チェアマン

 スポーツに甘えない。スポーツビジネスという言葉は嫌いだ-。1月、スポーツを核に地域活性化に取り組む産官学の任意組織「SPOC(スポーク)研究会」が主催した講演会の壇上に招かれたプロバスケットボールBリーグの島田慎二チェアマンは、チームが企業の〝善意〟の協賛に頼るだけでなく、ビジネスとして自立した経営を行う中で、地域に「価値」を還元することの重要性を繰り返し訴えた。少子高齢化と東京一極集中により地方経済の融解に歯止めが利かない中、プロスポーツチームが地方に還元できる「価値」とは何か。その問いを突き詰めた先には、地域にプロスポーツチームがあることの「意味」、ひいては地元住民や企業、自治体がチームを応援する「動機」へとつながっていく。島田チェアマンの講演要旨を紹介する。

地方創生の担い手

 地域を元気にするのにスポーツを活用しようなんて考えは数年前にはなかった。国は成長戦略や地方創生の基本方針にスポーツ、健康まちづくりの推進を明確に掲げた。スポーツがまちづくりの核として期待されている。

 大きな将来構想として、Bリーグは設立10年目の2026年にB1~B3まで勝負でカテゴリーが上下する方式を廃止し、経営力で基準を設け、カテゴリーを分けるというステージに移行する。ちなみに一番上のリーグにいく条件は3つ。売上高12億円、入場者数平均4千人、要件を満たすアリーナを地域に設けていること。次が売上高4億円、入場者数2400人。勝った負けたを中心に稼ぐスタイルから、今度は計画的に稼いだ上で地域やチームに還元して健全経営できるようにシフトしていく。

 なぜこういうことをするのか。リーグのミッションはバスケで日本を元気にすることだ。バスケ選手を人気スポーツ選手ナンバー1にしたい。観客を魅了できるアリーナを日本全国に造ってスポーツエンターテインメントとして存在感を示したい。現在、全国にある50クラブを将来的に60クラブに増やしていき、日本中にあるクラブが地域創生の担い手になって、その集積で日本をトータルで元気にしていきたい。

世界第3位のリーグ

 バスケットボール界の状況を紹介したい。競技人口は世界で最も多く4・6億人。サッカーが2位の2億人で2億人ぐらい差がある。日本では63万人で90万人のサッカーに次いで2番目。アリーナスポーツでは最も入場者数が多いのがBリーグで、野球、サッカーに次ぐ第3のスポーツとして期待されている。

 Bリーグの収益は2016年の発足当時が8億円。最初のシーズン後(16~17年)は46億円に伸びた。近く70億円ぐらいまで行くだろう。世界で2番目に大きい欧州・ユーロリーグの収益が100億ぐらい。中国のリーグもそれに近いので、Bリーグは世界単独3位のリーグということになる。5年で世界3位にのし上がった。私が在任中に単独世界2位、100億超えを狙って事業拡大をしていきたい。クラブ収益は当初83億円でいまは現在270億ぐらい。リーグ、クラブともに事業規模としては少しずつ大きくなっている。

社会的価値、経済的価値

 地域創生とクラブチームの関係でもう少し現実的な話をしたい。地域創生とトライフープに置き換えて考えてほしい。東京から地方にもっと人口を移して、地域の過疎化を解消するとか、人口減少に対してなんらかの対策をと叫ばれて久しいが、まだまだ相対的には東京一極集中は変わっていない。政府のまち・ひと・しごと創生基本方針2019において、スポーツ・健康まちづくりが追加され、つまり、地域とスポーツ、地域とクラブをもって地域を盛り上げ、経済効果も社会的効果も生めるようなものをつくることの必要性が明確に示された。

 チームとチームが興行するアリーナに何が期待されるかというと、当然ながら各種人口の増加。コミュニティーの創出、雇用の創出、観戦機会の創出。特に観戦機会は、地元に「おらがチーム」があって応援できるっていうのは、あると当たり前ですが結構尊いことだ。そうした好影響でにぎわいを創出し、稼ぐことが出来れば税収も増える。アリーナ周辺の防災力の向上、健康増進、住民間のつながりの創出、さらに若い人たちがたくさん地域に戻ってくれば治安の改善だとか住環境、地価も上がると思うし、地域愛着度も向上していくだろう。

 こうした好影響および効果は、教育・健康・福祉などに寄与する社会的な価値と興業や雇用創出といった経済価値に大別される。

 社会的価値とは、人口増やビジネス機会の創出、地域ブランディングへの寄与、地域環境の向上改善といったチームが活動することによってもたらされる効果で、少し目に見えづらい。じゃあそれを価値換算したらどうなの?立証できんの?みたいな話になると難しい。

 分かりやすいのは経済的価値だ。ちなみに私が以前に経営していた千葉ジェッツは船橋市をホームタウンにしている。最初のころの経済効果は2億から3億ぐらいで、最終的には17億ぐらいの売り上げになり、その時の地域経済波及効果は35億円くらいだった。クラブの事業規模の何倍もの金額が地域へ波及する。経済波及効果とは交通費だとかアウエーの人が宿泊した宿泊費だとか、地元の飲食街での食事代。沖縄の琉球ゴールデンキングスなんかは、売り上げ9億ぐらいだが、観戦には飛行機が不可欠で、必然的に宿泊もする。だから、経済効果は50億ぐらいまで伸びる。千葉ジェッツの半分の売り上げでも千葉ジェッツより高い経済効果。つまり、その地にある存在感というのは図体の大きさではなくて、その地域の特性と因果関係を持って波及されるものだ。いわゆる観光資源だとか、魅力的な地域だとか、交通の便だとかそういうものを全部併せ持って作られてくる。岡山は交通の便が良いし、観光資源は抱負だし、おいしいものが多い。トライフープがB1に上がった暁にはアウエーのファンがたくさん来て、地域への経済効果はどんどんどんどん波及していくはずだ。将来的に何倍にもなって跳ね返ってくるのであればある程度の規模、それなりのステージにみんなの力で押し上げてしまえばシャワー効果で地元に還元される。良い意味での投資と考え、楽しみながら応援するというのは、地元の自治体、経済界としても十分価値があることと思う。

三方良し

 この業界、スポーツの力に運営側の我々が依存してしまうと、ついつい雑なビジネスをやってしまう。近江商人ではないが「三方良し」でないといけない。ギブアンドテイクで支援を受けたらそれに対して何をお返しできるのかが重要だ。メディアに対してロゴがいっぱい映るというのも大事だが、どういう風にスポンサー企業のビジネスに貢献できるか。スポンサー企業の社員が満足してくれないと社長もなかなか支援の意思決定がしづらい。やっぱりウインウインにならないと。そこがスポーツビジネスの落とし穴であり、ぜったいにはまってはいけないことだと思う。

 日本の風景や食、温泉。これがあと30年もしたら、人口はどんどん減り、居住区域も少なくなる中でどんどん縮小していくのは寂しい。経済成長が血気盛んなときのような時代ではなく、じゃあ何を持って地元を元気にしていくのですかというと、実は政府にも答えがない。スポーツの力を活用してピュアなところだけではなく、地域の資源として有効活用していくことが非常に重要になってくる。


島田慎二(しまだ・しんじ)
1970年、新潟県出身。大手旅行会社を経て、法人向け海外旅行会社など複数社を起業。2012年に千葉ジェッツふなばしの代表取締役社長に就くや経営危機にあったクラブの建て直しに奔走した。手腕が評価され、Bリーグ理事や副理事を歴任し、20年7月、理事長(チェアマン)に就任。Bリーグ3部トライフープへの支援をホームタウンに呼び掛ける活動の一環で1月下旬に来岡した。

久万 真毅

WRITTEN BY

久万 真毅
新聞記者。スポーツまちづくりをテーマにした連載取材班として、「2016年度ミズノ スポーツライター賞最優秀賞」を受賞。小学1年から大学卒業までは剣道、現在はシーカヤックやテレマークスキー、渓流釣りを嗜む。アウトドアスポーツを活用した地方の活性化に関心がある。1977年生まれ、倉敷市出身。