シリーズ「どう解く?部活動の地域移行という超難問」(2)問題を読む
<要約>
運動部活動は,<スポーツ活動+学び・教育的支援>によって構成される特殊なスポーツ活動だ.「運動部活動の地域移行に関する検討会議提言」に指摘されている運動部活動の持続可能性問題は<スポーツ活動>に関するものであり,<学び・教育的支援>をどう確保していくかは全く記載されていない.
今次の地域移行論議は,教育行政・学校教育上の問題だった部活動の持続可能性問題を,東京2020大会の残り香を利用して地域スポーツ振興,スポーツ産業推進の政策課題にすり替えたものだと考えられる.
提言にもある通り,今次の地域移行のスタート地点は「部活動の教育的機能は重要だが持続可能ではない」という問題意識からだ.そして,ここでの持続可能ではないという認識は,少子化とOECDが示したわが国の教員の過労状況に対応する働き方改革が背景にある.そして,これ以上,教育予算を増やしたくない財務省の意向も見え隠れする.
ここまでは理解できるし,確かに問題なのだが,そのために必要な運動部活動の改革が,「地域移行」と「地域におけるスポーツ振興」であると提案されるところに論理の飛躍がある.この論理の飛躍を隠蔽するために「地域部活動」という意味不明な新語が発明しているところにもスポーツ庁内の苦心が見て取れる.
地域移行に関しては,中教審答申(H31.1働き方改革答申)を根拠にしているが,答申では部活動は「学校の業務だが必ずしも教師が担う必要がない業務」として,部活動指導員等が担うことが例示されており,本文においても「これまで学校・教師が果たしてきた役割も十分踏まえつつ」とある通り,部活動が担ってきた教育的機能を放棄するものではなく,「学校や地域住民と意識共有を図りつつ,地域で部活動に代わり得る質の高い活動の機会を確保」すべきとされている.ここでの共有すべき意識や高い質とは,教育的機能の発揮に関わることと読むべきだろう.しかし,地域移行をめぐって教育的機能をどう維持するか,ということについてはほとんど論じられていない.提言案からの修正履歴付の資料(第8回検討会議配布資料)をみると,最終案の3頁において教育的意義や役割を継承・発展させていくべきとわずかに書き加えられた程度だ.
地域移行後,部活動が内包していた教育的機能をどの程度維持すべきなのか不明確にしたまま地域移行論議を立ち上げたため,学校の運動部活動の問題が地域スポーツ問題にすり替えられてしまったのではないだろうか.そのため,提言の5頁~7頁に記されている「求められる対応」に記載されている内容は,総合型地域スポーツクラブ政策以降,繰り返し指摘されてきたことと大差ないし,第2章から第8章は受け皿整備としての地域スポーツ環境整備に関する記述だ.
さらに,スポーツを15兆円産業にしていくという経済産業省とスポーツ庁の意向も問題のすり替えの後押しをしている.中学生年代の広大なスポーツ市場は,運動部活動によって民業圧迫されてきたという考えが透けて見える.
ただ,現状の運動部活動がどれほどの教育的機能を持ち得ているのか,すべての運動部活動が等しく教育的機能を発揮しているのか,ということについては議論の余地がある.競技力向上に傾倒し,スポーツ文化の担い手としての学びと成長を軽視している現状は確かに,少なからずある.しかし,それは運動部活動そのものの問題であり,教育行政や学校が主体となって解決すべきもので,地域移行の論拠にはならない.(地域スポーツ指導者と連携して解決することは十分あり得る)
このように,問題の発端と解決策がちぐはぐな地域移行論議だが,提言は出されてしまった.しかも令和5年度から7年度末までという期限付きだ.出された問題は解かねばならない.問題は,地域スポーツ環境整備の方向性と中身だろう.