スポーツと地域

ラージボールというスポーツ新潮流-ジーンズメーカー社長らが新会社設立-

 十数の卓球台で、中高年の男女がラリーに興じている。岡山市内で8月にあった「ラージボール」の練習風景だ。
 卓球の国際公認球(直径40mm)より一回り大きい直径44mmのボールを使うラージボール。空気抵抗が大きくなる分、球の速度が遅くなる。ラケットも回転が掛かりにくいソフトラバーを用いるため、技能の差が小さくなり、ラリーが長く続きやすい工夫が施されている。

 岡山市内で今春、この競技の普及を目指す新会社「ソフトアスリート(S.A.C)」立ち上がった。岡山県内で大会や練習会の開催を続けてきた藤井洋子さんと、ジーンズメーカーとして知られるボブソンホールディングス(岡山市)の尾崎博志社長が共同で代表を務める。

左:尾崎博志社長,右:藤井洋子さん

 ボブソンは2018年に設立された卓球Tリーグ・岡山リベッツに出資するスポンサーだ。尾崎社長も学生時代からプレーヤーとして卓球に打ち込んできた人だ。ただ、「人生100年時代となった社会で、スポーツが果たせる役割を考えた時、卓球ではなくラージボールの方が良いかなと考えたんです」と尾崎社長は言う。
 藤井さんは長年、ラージボールの普及や指導を手弁当で続けてきた。社会的な意義を強く感じた尾崎社長が、活動を自律し持続可能なものにするため、会社経営のノウハウを生かして基盤を固めるサポートをしようと手を挙げた。

 岡山市内で定期的に開催されている練習会の参加者は大半が50~60代で、中には90代の男性もいる。ラリーが続きやすい種目特性は人を選ばない。卓球経験者も初心者も、老いも若きもひとつのテーブルで楽しむことができるインクルーシブなスポーツだ。「勝ち負け」というよりも、競い合う楽しさを長く続けようとする空気や互いに学び合う空気が自然と生まれる。会場には,勝敗が決した瞬間的な喜びと悔しさの声ではなく、好ラリーが続いた時の柔らかな歓声が響く。常にポジティブな雰囲気だ。

練習会の風景

 一般的なトーナメント戦は敗者が脱落していくが、ラージボールの交流大会は、参加者全員が同じ試合数で楽しむ。スポンサーや参加者にも、ただお金を出してもらったりプレーしたりしてもらうだけでなく、できるだけ運営に参加してもらっている。
 尾崎社長は「ケアハウスを作るより、ラージボールを広げたほうが、健康寿命の促進に貢献できるでしょう」と言い放つ。活動に主体的に関わってもらうことが、コミュニティを活発化させるだけでなく、その人の生きがいにもなっていくと考えているのだ。練習会に見られるポジティブで仲間と学び合う雰囲気は、身体だけでなく精神も健康になるだろうと思わせるものだ。

 藤井さんの尽力もあり、大会の開催数は2015年のスタートからこれまでに30回を超え、岡山県内外から100人以上を集めるまでに育ったラージボール。健康寿命延伸の機能をもつスポーツとして普及が進み、クラブの設立や大会の開催が拡がれば、「健康なまち」に大きく貢献するスポーツインフラになる可能性が大きいだろう。そして、「ソフトアスリート」の設立によって、普及や幅広い活動の持続可能性も見えてきた。