海でつながり、海を活かす~渋川海水浴場の今~
岡山県玉野市に、「地域創生」を掲げるトップスポーツクラブがある。
ビーチサッカークラブのハレクティオ岡山だ。
その代表である安原賢一さんは、2006年に玉野市渋川の渋川海水浴場をフィールドにビーチサッカーをやり始めた。
当初からビーチサッカーの全国大会誘致を目指し、2014年には「第9回全国ビーチサッカー大会」の誘致に成功した。しかし、地元岡山県勢は予選リーグで一勝もできずに敗退。この結果に安原さんは奮起した。
そして2015年、ビーチスポーツの普及と強化、スポーツツーリズム振興に取り組む「おかやまビーチスポーツ協会( 任意団体)」を設立。ビーチバレー、ビーチテニス、ビーチサッカー、ライフセービング、パラグライダー、ビーチヨガ・フィットネス、ダンス、オープンウォータースイミング、トライアスロンといったビーチで活動を展開する競技団体関係者のほか、玉野市長や国会議員が名を連ねる大きな組織が生まれた。
現在の玉野市は、かつて活況していた造船業が下火になり、地域振興の新たな活路を求めている。渋川海水浴場はそのための有力な資源だ。
全国有数の平坦で広く美しい砂浜を有し、海水浴シーズンには県内外から多くの海水浴客が集まる。海水浴場の目の前には客室188室を擁する瀬戸内マリンホテルがあるほか、岡山県渋川青年の家や市立のカヌー艇庫などが並び、マリンアクティビティに必要なインフラがほとんど揃っている。
しかし、渋川海水浴場の活用には制度的なハードルがいくつもある。
海岸法の下、国土交通省(備前県民局)が管轄しているだけでなく、国立公園法に基づく環境省の影響力も大きい。また,渋川海水浴場は玉野市が岡山県から借り受ける形で管理・運営していて、その意思決定は玉野市が統括をする「渋川海水浴場運営協議会」によってなされている。おかやまビーチスポーツ協会は、ビーチスポーツ活動やイベントを行うにあたり、各方面への海水浴場の様々な使用許可申請を一括して行っている。地域資源として活用するにはあまりに複雑な状況だが、おかやまビーチスポーツ協会がワンストップ組織として機能することで機動力を高めていると言えるだろう。
こうして、玉野市のビーチスポーツ推進の基盤ができあがった。
そして2019年、安原さんが代表理事になって一般社団法人渋川マリンアクティビティ協会が設立された。おかやまビーチスポーツ協会の加盟団体として、ビーチスポーツを観光資源やビジネス・コンテンツとして活用していく実働組織の誕生だ。ビーチサッカークラブ・ハレクティオ岡山の運営主体でもある。
現在の渋川海水浴場の海開き期間の管理は、渋川マリンアクティビティ協会が担っている。2016年度以降、地元の観光協会から清掃などの一部業務を受けるようになり、2019年度には遊泳客の監視や有料シャワー・休憩所の運営など、徐々に広く業務を行うようになっていった。玉野市の海水浴場運営予算が削減される中にあっても、ライフセービングクラブや地元漁協などと連携して安全確保の向上に努めている。
その後、2020年にはコロナ感染拡大に伴う海開き中止で活動が見込めなかったものの、まちおこしをテーマに電力販売事業を展開するなどの活動を展開しており、2021年度には大手広告代理店や第二種金融商品取引業者、人財支援会社と共同で渋川観光駐車場とキャンプ場の管理運営を行っている。また、2022年度に向けて、海岸来場者がビーチを満喫できるようにマリンアクティビティ用具のレンタル事業(BtoC事業)や、海水浴場でのイベント開催を支援するため、主催者向けの機材レンタル事業(BtoB事業)を計画しており、活発な取り組みを見せている。
安原さんのビーチサッカーへの情熱に端を発した取り組みは、様々なビーチスポーツの関係者や海水浴場の利害関係者をつなげ、渋川海水浴場の地域資源としての価値を高めている。スポーツまちづくりの3つの条件に照らせば,「社会的ネットワークの構築」と「スポーツインフラの育成」が進んでいると捉えられるだろう。残るひとつの「事業性の確保」という条件についても、コロナ禍は以前厳しいが、立ち止まることなく様々な取り組みが動き出している。
なお、玉野市は昨年に引き続いて2021年の渋川海水浴場の海開きを中止とした。県外からの海水浴客の流入を抑えるためだ。渋川マリンアクティビティ協会にとって、まだまだコロナ禍の苦難は続くが、ビーチスポーツが切り開こうとする玉野・渋川の未来は決して消えてはいない。