スポーツとコロナ

「スポーツは不要不急か?」岡山大バスケ部の〝決起〟㊤

 新型コロナウイルス禍が世界を覆った昨年、日本のスポーツ界は、ほぼ完全に機能停止に陥った。プロ野球やJリーグが試合を中断、3月には東京五輪の延期が決まった。かつて経験したことのない非常事態。「不要不急の活動停止」という〝要請〟を前に、多くの関係者は頭を垂れざるを得なかった。あたかも「スポーツは不要不急の存在」と、自ら認めるかのように。

 このシリーズでは、コロナ禍の激流にもまれながらも、スポーツの火を消すまいとあがく地域の人々の活動や思いを通じて、その存在意義を問い直したい。初回は、大学独自の大会参加規制の緩和を求めて、インターネットで署名活動を展開した岡山大バスケットボール部のエピソードを、ことの顛末を見守った学生目線でリポートする。

コロナ禍で生活が一変

 止まり続けていた岡山大スポーツを動かしたのは男子バスケットボール部に所属する当時2年生の学生有志だった。

 独自に学内外から約1300人分の署名を集めて対外試合の制限緩和を実現させた彼らはなぜ、行動を起こしたのか。その理由に思いをはせることこそが、スポーツの存在意義を理解するヒントになりはしないだろうか。

 私たち体育会系部活動が新型コロナウイルスの影響を受けたのは2020年4月に緊急事態宣言が出される前からだった。日本国内での感染者数が目に見えて増えていく中、大学側から活動の自粛を求められたのは3月初旬だった。 この時期、私たち自身もいまだ経験したことのない恐怖感や不安感に煽られ、クラスターを発生させないよう活動自粛を自ら進めていた。そして、4月7日、東京を含めた7都府県に緊急事態宣言が発せられ、翌々週の16日に私たちの街・岡山でも緊急事態宣言が発出された。私が所属している部も活動を自粛。国内だけでなく世界中のトップスポーツが軒並み活動を停止していた。

 私たちの生活は一変した。どこへ行くにもマスクで口と鼻を覆っていないと社会から批判されていると感じるようになった。友達と遊ぶにも行き先の選択肢は確実に減っていく。家での自粛生活は、初めは忙しい部活動からの開放感に浸っていたが、アルバイトが無くなると金銭的には我慢を強いられるようになっていた。

対外試合は不許可

 5月25日に緊急事態宣言が全面解除された。6月、7月とプロ野球やJリーグが徐々に活動再開していったが、私たち運動部の活動は許されていなかった。もちろんプロリーグと同じ扱いをさせてほしいとまでは思わなかった。ただ、いつかは日常に戻ることができるのだと希望がわき、家でメンバーとオンラインでつながり、筋トレなど自分でできるトレーニングをこなしていた。

 7月、いよいよ練習解禁になる。屋外競技でも基本的にマスクをした状態での練習、そして少人数グループでの練習のみが許可された。高校野球では地方大会の開催が決まり、他県の私立大学などでは厳重な体調管理と感染予防対策を行った上であれば試合を行える状況になっていた。私たちも大学からの試合解禁の知らせをまだかまだかと待っていた。

 そして8月、大学側が出したのは予想外の「対外試合は不許可」との通達だった。

国より厳しい規制

 署名活動の舞台となった男子バスケットボール部は、自粛期間中もSNSなどを通じて部員同士がオンラインでつながり、精力的に活動していた。それだけに、8月の大学側からの通知は衝撃的なものだったはずだ。

 「今シーズンの対外試合は行えない可能性があります」という通達は4回生の最後の試合が失われることを意味した。「今までチームを引っ張ってくれた先輩たちが最後に部活をやっていてよかったと思える舞台をコロナに奪って欲しくない」「自分たちでその機会を取り戻そう」。バスケ部の有志たちが大学側に規制緩和を求めて立ち上がったのは、そんな思いからだったに違いない。

 彼らはまずは学生支援課に行き、この決定の理由を尋ねた。

 他地域の大学が公式戦に出られるのはなぜか。出場に向け自分たちにできることはあるか。あるとしたらどのような方法か――。

 その結果、大学側が文部科学省のガイドラインよりも厳しい規制を設けていたことが分かった。実際、9月に予定されていたインカレ中国地区予選には、岡山大を除く7大学が参加を表明していた。一方、学生側からの意見書の提出によって事態が変わる可能性があることも分かった。

勝ち取った規制緩和

 バスケ部有志たちはまず、他の体育会運動部に対して意見書に賛同してもらうよう部員を回った。「もちろん全員が賛同してくれる」とバスケ部員たちは信じて疑わなかったと言うが、現実は厳しかった。自ら行動に移そうという機運は低調で、コロナの状況もあって「仕方がない」と言う諦めムードが学生にまん延していた。意見書などの書類を用意するのも面倒だったのかも知れない。ならば、名前を書くだけで気軽に賛意を示せる署名活動の方がいいのではないかと方向転換した。

 大学側には学生の課外活動に対し、外からは否定的な意見ばかりが届いていたことも知った。そのため、学内だけでなく、学外の賛同を得ることも不可欠という結論に至った。インターネットの署名サイトを使い、全国から署名を募ると、最終的に1千を超える署名が寄せられた。 提出期限までに集まった約800人の署名を添えて大学側に嘆願書を提出したのは9月7日。これを受けて大学側が会議を開いてくれ、感染者数の減少などから規制を緩和し、一部大会は申請を受けて参加の可否を判断することが決まった。バスケ部員たちがこの知らせを受けたのは9月14日。大会本番まで、2週間を切っていた。

                                          (㊦に続く)

藤田育明

WRITTEN BY

藤田育明
 ふじた・なりあき   4歳からサッカーを始め、小学六年生の時に全国大会準優勝を経験。岡山大学サッカー部前部長で、岡山県学生ベストイレブンに選出されたことがある。現在はスポーツイベント関連の企業に就職。岡山県立倉敷青陵高校出身。岡山大学教育学部保健体育専修を2021年卒業。