定点観測

スポーツの夏休みをまちなかで

オリンピックも残り4日.
いつもの夏とは違う空気が世間を漂っていて,コロナ禍第5波で帰省を自粛せよというお触れも出ているから,いよいよ例年の夏とは明らかに違う.

厚生労働省による資料「令和2年就労条件総合調査」によれば,日本の労働者1人あたりの年間休日数の平均は116.0日だそうだ.
また,2019年に実施されたエクスペディアによる世界19ヵ国の国際比較調査によれば,日本人は世界で一番「短い休暇を複数回」取得する割合が高いという結果が出ている.日本人は長期休暇よりも,短い休暇を頻繁に取得する傾向にあるようだ.また,有給休暇取得日数と有休取得率は,ともに日本は世界19ヶ国で最下位とのこと.日本人は年間を通じて同じペースで働き,時々休む国民のようだ.

2010年に注目され始めたスポーツツーリズムは,従来,休暇を利用した域外のスポーツツーリストが地域に来訪することによる経済的・社会的効果が期待されていた.
しかし,コロナ禍になり,人の往来が制限されるようになった.
その代わり,というわけではないだろうが,リモートワークの社会実装が急速に進んだことで,「ワーケーション」や「ブレジャー」という言葉も出てきていて,労働と休暇を区別しない考え方も生まれている.コロナ禍の意図せざる結果のひとつだ.

「休暇」をどう考えればいいのか,わたしたちは突き付けられていると言える.
コロナ禍で県境を越える移動が憚られている今は,少なくとも,観光地に遠出して,温泉旅館かどこかに泊まることだけを「休暇」と言うわけではないことは明らかだろう.
遠出しないでいかに休暇を価値あるものにするか,が問われていると思う.
そうなると,慣れ親しんだまちを,休暇を過ごすための場にしていく工夫が必要になるのではないだろうか.

まちは,日常と非日常を混在させることができる.
日常と非日常は,時間と空間に対する意味付けによって決まるからだ.
行政上の手続きで訪れる市役所には日常性があるが,市役所の駐車場で開催されるスポーツイベントには非日常性がある.同じ場所でも,意味が全く違う.

スポーツには,日常空間を非日常に変える機能がある.きっとアートや音楽にも同じ機能がある.
学校の体育館で開催するプロ・スポーツの試合.
街区公園で開催する全日本選手権.
大規模スポーツ施設で開催するアーバンスポーツ・フェス.
田んぼで行う泥んこ遊びのイベント.
夜の公園で開催するアート・ナイトイベントや野外音楽イベント.
河川敷でやるBBQやグランピング,家の庭でやるソロ・キャンプ.

長期休暇を取らずに,毎月少しずつ休みたい国民性があるなら,それを生かした休暇デザイン力を発揮したいものだ.

なお,フリースタイルBMXの全日本選手権が,9月17日から岡山市内中心部で開催される
少なくとも岡山市民にとっては,まちなかの日常空間でオリンピックに出場した選手のパフォーマンスが観られる機会だ.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。