定点観測

スポーツと笑顔

スポーツは,技能を競い合う「遊び」だ.
勝ち負けがあるから,競い合うことに必然性が生まれ,「遊び」は楽しく真剣なものになる.

オリンピック出場選手の勝利へのモチベーションは極めて高いはずだ.
オリンピックで入賞したり,メダルを獲得したりすれば,その後の人生は大きく変わる可能性がある.その種目に対する自国での注目度も大きく変わるだろうから,普及や強化に向けた状況がかかっているとも言えそうだ.また,国内の多くのライバルたちの敗北の上にオリンピック出場権を獲得しているのだから,背負うものは大きいはずだ.

そうして勝利は唯一絶対の目標になり,目的化する.
勝つか負けるかは,生きるか死ぬかのような重力を持つようになる.

そんな中でも,今回のオリンピックは笑顔が多かったように思う.
金メダルを獲得した選手が笑顔なのは当然だが,そうでなかった選手にも笑顔があった.新種目のアーバン・スポーツは,特に笑顔に溢れていた.
岡山市内で開催されたBMXフリースタイル・パークの全日本選手権を何度か観戦したことがあるが,実にポジティブで楽しい空間だった.今回のオリンピックを会場で観ていたら,きっと,国や人種を超えて楽しさを共有できることを体感できる素晴らしい経験になっただろうと思う.

アーバン・スポーツは,現代オリンピックの未来像のひとつを示してくれている.
いつの日か,国籍も,人種も,宗教も,性別も,選手自身の性自認も,出身国の国内事情も,そして障害も,その違いをすべて認め合い,超越して,「スポーツって,超楽しい!」という笑顔で競い合う姿がすべての種目で生まれ,観戦する側も「超楽しい!」,「このスポーツやってみたい!」と思えるようなオリンピックが実現するといいな.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。