“部活動の地域移行” 再構築①:インクルーシブ部活動
前回の「“部活動の地域移行” 再考①(2021.10.24)」では,今まさに始まった地域移行論議が,次のリスクを抱えていると指摘した.
・地域間格差と学校間格差が一気に拡大する
・全地域のスポーツ環境を持続可能にする資金循環モデルは描けない
・学校教育力が一気に低下する
そして,「運動部活動の持続可能性問題は確かに存在する.地域スポーツ振興も,スポーツに資金が集まり循環することも必要だ.それらをすべて同時に成立させる方法はどこかにあるはずだ」と述べた.その方法を考えてみたい.
なお,下記のアイディアは,様々な方々とのディスカッションで浮かんできたもので,その一部は,大阪教育大学附属高等学校平野校舎の学校運営協議会内に本年3月に設立されたスクールコミュニティクラブ「ひらの倶楽部」がすでに実現している.
回答案のひとつが,「インクルーシブ部活動」だ.
これまで通り,運動部活動は学校教育の枠組みの中で行われる.
ただし,参加するメンバーは子どもたちだけではない.地域の大人たちも,そして教員もだ.運動部活動は,学校の中で生涯学習的な意図をもって行われるスポーツクラブになる.コミュニティスクールの考え方を部活動に適用するイメージだ.
そこで必要になることは,例えば,子どもたちの部と地域に既存のママさんバレークラブが違う時間に活動するのではなく,いっしょに活動する,ということだ.
「部活動廃止?(番外)ー部活動新構想ー(2021.10.11)」にも書いたが,子どもたちはクラブ経営体験をしながら,スポーツとコミュニティづくりや組織運営を学ぶ.この学びは,大人たちにも必要なことだ.大人にとっては,生涯スポーツの場でありつつ市民的リテラシーを身につける場になるだろう.顧問教員は社会教育主事等と連携し,「学びをファシリテートする」という学校教員としての職能を大人相手にも発揮してほしい.そのための報酬は地域から調達する(調達のためのビジネスモデルは後述する).
コーチの役割を担うのは,子どもでも大人でも良い.大切なことは学び合うことだ.互いに動画を撮り合い,もっとこうしたらいいかも,とか,Youtubeの動画とここが違うんじゃない?などといっしょに研究すればいい.専門性の高い指導者によるサポートが必要なら,報酬額も含めてみんなで考えて部活動指導員を雇用すればいい.人材は県内から広く募集し,報酬は地域から調達する.
学校体育施設の利用料や顧問教員への手当て,部活動指導員への報酬,設備・用具の購入費等のための資金は,地域住民メンバーの会費と,この部活動を支援する地元企業からの寄付などが考えられるが,最も大きい資金源として考えられるのは,地元企業が社員の福利厚生や社内研修の機会としてこのインクルーシブ部活動を活用する事業の事業費として支払ってもらう,ということだ.社員に事業所のある学区の学校のインクルーシブ部活動に加入してもらったり,新入社員研修として子どもたちと学び合う体験をしてもらう.健康経営や研修促進に関わる助成金がすでにあるはずだから,事業者はそれらを活用してもいい.
そうした資金の受け入れ先となる「インクルーシブ部活動協議会」が学区にひとつ必要になるだろう.区長や学校長,顧問教員代表,スポーツ推進委員だけでなく,地元企業の代表者はもちろん,子どもたちにも入ってもらう必要がある.各部キャプテンの代表か,あるいは生徒会長が適任かもしれない.
中体連・高体連主催の大会は,(改善の余地はかなり大きいが)子どもたちだけが学校単位で出場するものと,大人と混ざって出場できるものを用意してはどうだろう.まさにインクルーシブな大会だ.都道府県や市区町村のスポーツ協会と連携してもいい.壮行会は地域の一大イベントになるし,部活動メンバーになっている地域の大人たちが種目を超えて応援に駆け付けるはずだ.
そんな部活動が全国津々浦々に拡がるとしたら,スポーツは,学校に通う子どもたちを含む多様な地域住民によって育まれる地域文化になり,市民として学び成長するための場になるだろう.ソーシャル・インクルージョンが叫ばれる今日,「運動部活動は学校で続けるべきか,地域に出すべきか」などと分断するような議論をせず,スポーツが学校と地域とが混ざり合うためのフィールドになればいいのではないかと思う.