定点観測

トップアスリートが持っているホントの力①:能力の中身

弊社Sports Drive LLC.がトライフープ岡山,株式会社COMPUSと手がける現役プロ・アスリートの長期企業インターンシップ事業が順調に進んでいる.

小川・高橋(2010)によれば,日本のアスリートは①セカンドキャリアのことよりも勝利に直結するようなことに時間を費やすべしという行動規範をもち,②キャリア選択に必要な行動や価値観の優先順位をつけるのに十分な人生経験を積んでいない,という実態があることが分かっている.
こうした指摘は数多くあり,支援のあり方が問われてきたものの,特にプロ・スポーツ界では抜本的な解決はなされていない.

プロ・アスリートはトレーニングと試合でのパフォーマンスを本業としているが,契約解除のリスクからくる近い将来の生活とキャリアの不確実性は(本人が意識していようがいまいが)常に付きまとう.このことを少しでも解消したいと始めたこの事業.その責任は本人やクラブだけにあるのではなく,活力や様々な波及効果といった恩恵を受けているホームタウン(まち)にもあるだろうという思想が根底にあった.

加えて,この事業構想の基盤には,トップレベルのアスリートには,競技スポーツを通して身に付けた広範で高度な資質や能力があるという思いもある.それらは,企業人としても十分通用するものだと思っている.
それは,課題発見・課題解決能力とセルフマネジメント・タイムマネジメント力だ.

アスリートは,他者(ライバル)のパフォーマンス(競技力)と自己のそれとの比較を通して,トレーニング内容を決める.今の自分に何が足りないのか,他者に抜きん出た強みは何か,ということが分析できなければ,今日,どんなトレーニングをどれだけすればいいか分からない.それが分かれば,トレーニング等に関する理論をベースに具体的なトレーニング方法を考えて実行する.その結果を試合で確認し,再び分析し,次のトレーニング方法を考えて実行する.
こうした課題発見・課題解決のループを十数年と繰り返してきて,身体化されているのがトップアスリートだ.

そんなトップアスリートの生活はトレーニングの日々だ.
トレーニングは決して身体を動かすことだけではない.食事や休息も重要な要素だ.
チームスポーツの場合はチーム練習の時間は決まっているが,それに向けて何時に起床し,どれくらいの時間をかけてウォーミングアップをするのか,そして練習後,どれくらい個人練習の時間を取り,どれくらい心身の休息に時間をかけるのか,食事は何時から,どれくらいの量を食べるのか,そして睡眠は何時間必要か,といった具合に,生活すべてがアスリートとしてデザインされたものになっている.
パフォーマンスの向上という一点に向けて,自己を統制(セルフマネジメント)し,生活時間をデザイン(タイムマネジメント)するのがトップアスリートだ.

なお,こうした能力を身に付けているのは,自律的に競技生活を送ってきたトップアスリートだ.
指導者の指示や命令,規則がないと動けないスポーツ選手は,いずれの能力も身に付けていないと思われる.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。