定点観測

オミクロン株と人間

オミクロン株の感染力に驚いている.
日ごとに新規感染者数が前日の2倍に増えていく.

ウィルスというのは,とても環境適応力の高い生物だとつくづく思う.
現状の株に対する人類の抵抗が整ったら,別の形に変身して抵抗をすり抜ける.ものの数か月の間に,だ.
一方,人類は科学的英知を集めてワクチンや特効薬を開発するが,ウィルスの変異のスピードには到底及ばない.

そもそも,防御壁を張ろうとしたり,感染症の発症を抑えたりして,ウィルスを超越しようという発想に無理があるのではないかと思う.これまで人類は,史上一度も自然を超越したことはないのだし.

「人間の命は尊い.ウィルス感染症による多くの人の死は避けたい.」

そう考えるのは人間だからであって,「生命」に守るべき価値があるという価値観は,ヒトを含む自然界全体の中で共有されているものではない.

もし,人間の「生命」が自然界全体にとって使用価値があるのだとしたら,人間は自然界のシステムの中で生存するだろう.
しかし,もし人間が人間や他の生物の「生命」の価値を(自然界のシステムではなく)資本主義のシステムの中で勝手に設定するようなことをしている内は,人間は自然界の中のノイズのままだろう.人間の活動が地球全体に影響を与えるほど強大になっている現在,ノイズは自然界の中で排除すべきものになっているのかもしれない.

オミクロン株の猛威のただ中,地球における人間の存在を問い直す必要があると感じている.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。