ジブリなスポーツ③
前々回,前回に続き,今回はスポーツの楽しさと自然との関係について考える.
スポーツは人間社会が創ってきた文化だ.
ジブリ作品に登場した風の谷の風力農業,蝦夷の一族が守る占いの文化,たたら場にある製鉄産業,これらもすべて人間社会が創ってきた文化だ.
自然とともにある文化,自然を生かす文化,自然を破壊する文化,自然と文化との関係は様々だ.
『となりのトトロ』に,メイが庭で小さいトトロを追かけ回すシーンがある.トトロと初めて出会う大切なシーンだ.幼いメイにとって,初めて見るトトロは捕まえてみたい対象であり,トトロを追いかけるその姿は鬼ごっこだ.人間のメイにとって,畏怖する対象としての自然そのものであるトトロも遊び相手になる.
遊びには「対象(相手)」が必要だ.競い合う友達やごっこ遊びの相手をする人形はもちろん対象の代表例だが,てっぺんまで登るとちょっとこわいジャングルジムも,ゴロゴロ転がると気持ちいい芝生の坂も,うまく乗れない自転車も,「できるかな?できないかな?」という遊びをともに生み出す対象だ.
古来,人間は何でも遊びの対象にしてきたのではないだろうか.
石器時代の狩りは食料を得るための危険な仕事だったと思われるが,古代エジプトのピラミッドから発見された壁画には,レスリングや重量挙げと並んで弓矢による狩猟が描かれているし,古代オリンピックではやり投げや円盤投げ,雄牛を跳び越す競技が採用されていた.食料集めの狩りが「狩りの道具を上手く使えるかな?」,「うまく狩れるかな?」とか「誰が一番多く狩れるか?」という遊びになっていたことは想像に難くない.(現代では狩りそのものが『モンスターハンター』というゲームになっているw)
つまり,遊びは,対象となる人や物との関係から生まれるということだ.
あらゆるものが遊びの対象になり得る.自然環境もそのひとつだ.
アウトドア・スポーツは自然環境を重要な対象とする遊びだ.
刻一刻と変化する自然環境を感じ,読み,対応するという遊びは,同じ状況が二度と起こらないという意味で,常に新しい体験ができる.そこでは自然も楽しさをともに生み出す対象だ.
一方で,それ以外の高度化した競技スポーツは,気候条件に左右されない競技環境を求める.バドミントンや卓球,バレーボールは日光と風を遮る必要がある(エアコンの風すらコントロールする).屋外競技の野球やサッカーですら,全天候型のドームスタジアムが数多く建設されている.そこでは,練習で積み重ねた運動技能を再現することが要求されるから,刻一刻と変化する自然環境は排除すべきノイズなのだ.
それは,「スポーツの純化(不純物を取り除く)」と言えばカッコいいが,自然をノイズとして排除することで,人間だけで楽しさを生み出せるようにした「スポーツの無菌化」とも言えるだろう.「スポーツは人類の専有物で,自然に影響されてはいけない」という競技スポーツの思想は,自然を排除するという形でコントロールしようとする(『風の谷のナウシカ』に登場する)巨神兵のようにも思える.
競技スポーツと自然が共生する未来はないだろうか.
競技スポーツに自然という対象を内包させたら,楽しさが拡張するのではないか.
次回(最終回)へ続く.