定点観測

食い違うほど,未来は拡がる.

会議や打ち合わせの場が好きだ.
社会にとって,何らかの意味をもつ決定を下すことにワクワクする,ということもあるけれど,なにより,その場にいる人との議論を通して,その人の思考と私の思考がぶつかったり,くっついたり,混ざってひとつなったり,むしろ遠く離れたりする,そういうやり取りというか,駆け引きが楽しいのだと思う.

会議の場で,常に頭の片隅に置いていることがある.
「この人は,決して『悪いことにしてやろう』と思っているわけではない」と.
この観念から,次のような問いが自分の中に生まれる.
「なぜ,この人はこういうことを言うんだろう?」

そんなことを考えながら対話していれば,意見が大きく異なる人との間でも,折り合いをつけたり新しい合意点を見出すことは,それほど難しいことではない.

それでも,あまりに意見が真っ向から食い違うこともある.
そうなると,「なぜ,この人はこういうことを言うんだろう?」と考えても答えが出ない.

そんなときは,問いを変えることにしている.
「この人にとって,どうなることが好ましいゴールなんだろう?」
その人には自分とは違う立場や考え方があって,目指したいゴールは違う.そのゴールは,その人にとって「良いこと」のはずだ.

そう考えれば,次にこういう問いが生まれる.
「この人が目指しているゴールと自分が目指しているゴールは,どれくらい離れているんだろう?」
ここまでくると,会議で決めないといけない事柄から一旦離れないといけない.
そもそも,この会議に参加する目的が違うからだ.
何はともあれ,この会議のねらい(ゴール)を合わせないことには,個別の事柄について決定することはできない.

その後の議論は,”そもそも論” だ.
抽象度の高い ”そもそも論” の議論ができる人となら,ゴールを合わせられる可能性はある.むしろ,”そもそも” に立ち返ることができれば,まったく新しいゴールが見つかる可能性すらある.0から1が生まれるクリエイションの瞬間だ.

クリエイションは意見の調整からは生まれない.
今日の会議は,その光がわずかに差した時間だった.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。