定点観測

聖火リレートーチに宿るエネルギー

TOKYO2020の聖火リレートーチを,ランナーを務めた黒田眞路氏(岡山県新庄村)から貸して頂いた.
黒田さんは,きっと多くの方々に見て触れてもらいたいと思われているだろうと思い,いろいろな方のところへトーチを連れていくことを私の役割と心得,「トーチシェアツアー」と称して連れ回している.

聖火リレーや東京五輪の開催・運営についてはいろいろ意見はあるけれど,実物のトーチに触れると,オリンピックの歴史と神聖さを感じた.何より,桜めいた透明感のあるブロンズと造形が美しい.
触れて頂いた方々は,もれなく「おぉーーー」と声を上げる.
それは「(ホンモノだーー)」の感嘆なのだと思うが,やはり,ホンモノの聖火リレートーチにはエネルギーがあるようだ.

聖火リレーの歴史は,1936年のベルリン大会,いわゆるナチス・オリンピックに遡る.発祥から現在(2016年リオ大会)に至るまでの歴史については,(公財)笹川スポーツ財団のレポート「オリンピック聖火リレーと最終点火者-聖火リレーの歴史-」に詳しいのでそちらに譲るが,85年の時の厚みと,毎回アテネで採火されるというオリンピックの原点回帰性が,トーチに宿るホンモノ感の源だろうと思う.

トーチは,触れた方々にオリンピックの厚みと原点を浸透させ,その体験を共にした人たちとの間に絆(ソーシャルキャピタル)を生み出していると思いたい.4年後(実際には3年後),いや20年後,オリンピックを観るたびに「東京大会のホンモノのトーチ,持ったなぁ」と思い出すことで,その時の絆も再生されるかもしれない.
それこそ,聖火リレーの重要なポジティブレガシーのひとつだろうと思う.

改めて,お貸し頂いた黒田眞路氏には深く感謝申し上げたい.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。