定点観測

祭りの後のまち

東京五輪代表選手が出揃い,各地で首長が激励するニュースが相次いで流れてきている.
五輪選手になれる人は超レアキャラだから,地方では間違いなくヒーローだ.きっと,五輪開幕に向けて役場や母校に懸垂幕が設置され,市中ではその選手の話題でもちきりになるだろう.

五輪選手はその存在だけで,地元地域を元気にしてくれる.
いつも挨拶程度しか会話しない人とでも「〇〇選手,頑張りましたねー」と会話が生まれる.〇〇選手の試合がある日は,ワクワクしてお酒の一杯でも飲もうか,なんてこともあるかもしれない.選手の実家近くの飲食店は「〇〇選手応援サービス!ビール一杯無料!」などと盛り上げるかもしれない.

しかし,この元気さは,地元出身の五輪選手がいるだけでは生まれない.その話題でお隣さんといつも以上に会話してくれる人,お祭り気分で自宅で飲んでくれる人,そして応援消費を喚起しようとサービスしてくれる飲食店店主こそ,地元を元気にする当事者だ.
五輪選手やその関係者,地元自治体は,地域の人たちに「応援したい!」「盛り上がりたい!」と思ってもらえる状況を創っておく必要があった.(もう開幕直前で間に合わないから過去形にした.そういう状況が創れているところとそうでないところがあるはずだ)

そして,五輪後はさらに大切だ.
東京五輪の祭りの後,この人たちは「〇〇選手のおかげで楽しい夏だったねぇ」と懐かしむだろう.五輪選手をめぐって生まれた地域の元気は,一瞬で消えて,元通りの地域になる.
五輪が短期間のお祭りだからこそ元気を長引かせることは難しい.五輪後に地域に元気を生む仕掛けは,五輪前・中とは全く違う新しいステージとして準備しておく必要があるだろう.これは今からでもまだ間に合うはずだ.

五輪選手は,引退後もスポーツインフラになり得るポテンシャルを持っているはずだ.しかし,まちのインフラになるかどうかは,選手本人だけでなく,まちの人たちの手にかかっている.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。