定点観測

「五輪に命をかける」の怪-終

東京五輪が始まっている.日々,熱戦がテレビやネットで放映されている.
スポーツを観ることは楽しい.白熱したゲームはハラハラドキドキするし,卓越した肉体の動きや精神力の発揮は感動的だ.

しかし,7月20日からスタートした「『五輪に命をかける』の怪」シリーズでは,競技スポーツの行き過ぎた闘争性は,スポーツにとっても,まちにとっても,ネガティブな影響が大きいと述べてきた.
そして,トップアスリートを特別視する視線は,「命をかけるほど真剣にスポーツしているレアキャラ」ではなく,「『”遊び” を仕事にしている人』という今日的なライフスタイルの提案者」であってほしい,と提案した.

トップアスリートのトレーニングの努力は並大抵ではない.だから「トップ」アスリートなのだ.
しかし,それは,オリンピックで最高難度の競い合いを楽しむためであってほしいし,決して命をかけているからではないと主張してほしい.
2000年のシドニー五輪,猛暑の中の女子フルマラソンで,高橋尚子さんが1位フィニッシュの直後に笑顔で言った.「すごく楽しい42キロでした」と.その後,高橋さんはスポーツを仕事にし続けている.あるべき姿だと思う.

「道の精神」からくる「命をかけるほど真剣に取り組む」という呪縛は,時として「楽しい」と言うことを拒む.この考え方は競技スポーツ以外にも,広く浸透してしまっている.楽しい仕事,楽しい勉強,楽しい生活は,自堕落なイメージが付きまとう.
東京五輪が,スポーツの世界から「真剣に遊ぼう!誠実に楽しもう!」と訴える機会になったら,と願う.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。