定点観測

スポーツは,理解するより感じたい

東京オリンピックが開幕し,多くのスポーツ種目がテレビとネットで放送されている.

日本のテレビ局が日本在住者向けに放送しているのだから,放送枠も実況・解説も日本人選手にフォーカスを当てたものになるのは当然だが,あまりにも「日本」「ニッポン」「JAPAN」と五月蠅いから,開幕2日目にしてテレビを通して東京オリンピックに触れるのもイヤになった.

その代わり,「gorin.jp」のLIVE配信は素晴らしい.
実況や解説が一切なく,会場の音だけを拾っている.カメラワークはゲームの動きに合わせて動くし,リプレイやスローモーション,360度から撮影した映像といったものも織り交ざっていて,テレビ放送のそれと同じだ(後で実況・解説を付けて放送するのかも).

まず,余計な情報がないから,パフォーマンスそのものに直接向き合える.
そして,無観客だから選手やコーチ,試合運営スタッフたちの声や,会場で流れている音楽や会場MCの声がとてもはっきり聞こえてきて,まるで無観客会場で観戦しているような気分になる.

キャッチアップ画像のバスケットボール(7月25日(日)の夜に配信されていたゲーム)では,プレイ中に選手たちがどう声を掛け合っているか,とか,ベンチにいるコーチや選手たちからどういう声が出ているが分かるから,プレイヤーにとってのゲームの流れや緊張感まで何となく感じることができる.
第3ピリオド終了時点でアメリカ(NBA選手の出場者数が過去最多の49名!)をリードしているフランス(NBA選手は6名だけ)が,チームの勢いを高い集中力で維持していこうとする現場の空気感は,フランス語のボリュームが大きくなってきて,どんどん上擦ってくるのが聴こえるからこそ分かるものだ.ゲームは,第4ピリオドからギアを一段上げたアメリカが一時的にリードを奪うものの,集中力を途切れさせなかったフランスが主導権を譲らず,焦ったアメリカがミスを重ねた結果,83-76で勝利を収めた.
それでも,アメリカチームから怒鳴るような声は一切聴こえて来なかったから,予選ラウンドのひと試合くらいどうでもいいや,程度に考えていることも分かる.彼らにとってはチーム作りのための練習試合なのかもしれない.

スポーツ観戦するには,ルールや選手情報などの知識が必要だという意見もある.確かに,トップアスリートの動きは素人目には分からないほどのスピードだし,選手同士の交錯場面や判定が必要な場面は何が起こったのか一瞬では分からないから,解説があった方が正確に理解はできる.しかし,実況と解説の音声が会場の音よりも前面に聴こえるものだから,空気感が一気に遠のくのだ.

理解する以前に,感じたいのだ.
ゲームやパフォーマンスそのものを観たいから,詳細な解説はテロップで表示してくれると嬉しい.また,その他の情報は,必要になったらこちらで勝手に見るから,QRコードか情報サイトを用意しておいてくれればいい.
テレビ局が一方的に提供してくるスポーツ情報は,お節介を通り越して,「スポーツを観る」という純粋な体験に不純物を混ぜ込む公害なんじゃないかと思い始めている.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。