定点観測

五輪でつながる?

つながる

東京オリンピック最後の1週間だ.
日中,テレビでは少なくとも3,4つのチャンネルで放送されているし,ネットでもLIVE配信されている.昼も夜もニュースや情報バラエティ番組がこぞって大会結果を伝えている.
その一方で,地元選手をみんなで応援するパブリックビューイングは軒並み中止になっていて,そもそも酷暑とコロナ禍の第5波が相まって,まちなかに出て友人たちと食事する機会は多くないから,オリンピックについて誰かと直接語り合うことはほとんどない.

地域にあるリアルなコミュニティでスポーツを話題にした会話が起こり,つながりを強めることは,大規模スポーツイベントの重要な社会的機能のひとつだった.今のところ,その機能は十分に発揮されているとは言えない.

反面,ネット上でのコミュニケーションは熱を帯びているようで,メダル獲得や素晴らしいパフォーマンスや好ゲームへの賞賛はもちろん多数見られるのだが,その一方で,コロナ禍のオリンピックを危ぶむ声や,アスリートへの誹謗中傷も多いようだ.
リアル・コミュニティにおけるコミュニケーションができない分,ネット上でのコミュニケーションにシフトしているのかどうかは分からないけれど,匿名性の高い(誰がどういう立場から発信しているのか分からない)発言が,オリンピックをめぐるコミュニケーション空間を支配しているのは間違いないだろう.

スポーツが人と人のコミュニケーションを生むとき,そこに「地域性」を媒介とした時空間的な経験と意味の共有が成立しないと,そのコミュニケーションは言葉だけのやり取りになってしまう.
同じ地域に暮らす人同士のコミュニケーションは,その土地の風景や時間の積み重ねをベースにした深い意味の共有が成立していて,交わされる言葉の意味を芳醇なものにする.
ネット上での見ず知らずの人同士の「〇〇選手,頑張った!」という発信の交わりと,地元出身の選手について,その選手をよく知る地域の人たち同士の「〇〇選手,頑張ったね!」という会話は,交わされる意味が全く違う.

感動と記憶が新鮮な内に,何らかの形でオリンピック談義する場がまちに必要だろう.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。