定点観測

スポーツ推進計画づくりはまちづくり

ほとんどの都道府県や市区町村には,独自の「スポーツ推進計画」というものがある.
その策定に関わらせて頂くことがよくあって,今年も某町の策定委員会委員長を拝命した.2022年度から4年間の推進計画だ.

こういう計画は,スポーツ行政上の施策とそれに関わる予算取りの根拠になるものだから,往々にして「行政が何をするのか」を書きがちだ.確かに,その地域のスポーツ環境やスポーツライフの課題は,スポーツ行政にとっても解決すべき課題だ.だから,真面目な行政職員ほど「行政として何をするか」を考えがちで,それを文章化する.

公共的・公益的な意味をもつスポーツと関わる機会がすべて行政による公共サービスとして提供されるものだとしたら,スポーツ推進計画は「行政によるスポーツサービス提供計画」になる.
しかし,そもそもスポーツと関わるのは人々の権利(スポーツ基本法より)であり,その権利は行政による保障に依存していいものではなく,自ら獲得するものだろう.そして,地域のスポーツ環境とそこでのスポーツライフは,そこに暮らす人たちの生活の実態や課題に合わせてデザインされる必要があるから,地域住民が自らの知恵と汗で豊かにしていくほかない.
一方で,自治体単位でのスポーツ施設整備やスポーツ指導者やボランティアの養成と組織化といったことは,地域住民に委ねるには負担が大きいから,これらは行政がすべきことかもしれない.
つまり,行政と地域スポーツ関連団体,地域住民がそれぞれの役割を担って協働していく必要がある,ということだ.

協働的なスポーツ環境づくり・スポーツライフづくりには,「どのようなスポーツ環境やスポーツライフを目指すのか」という目標像を設定し共有するための対話が必要になる.そのための場が,スポーツ推進計画策定委員会ということになるだろう.
この考え方に基づけば,計画の文章は「(行政が)〇〇します」という表現よりも,「(地域全体で協働して)〇〇しましょう」,「(役割を担う団体等は)〇〇してください」という表現が中心になるはずだ.

スポーツ推進計画を立案するプロセスは,その地域のスポーツに関する課題を理解し,スポーツ環境とスポーツライフの近未来像を対話を通して描き,それを実現するための方策を考え出して,実行する協働関係を育むものになる.
そのためには時間がかかる.たくさんの言葉を交わし,紡がなければいけない.
まちづくりの基本だ.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。