定点観測

どうすればできるか考えたい

甲子園は開催されていて,パラリンピックも開催された.
一方で,拡大が激しさを増すコロナ禍で,ここ岡山のまちなかでは何もかもがストップしている.
イベントはもちろん,公共施設はほぼすべて閉鎖された.

この違いはなぜ成立するのだろう.
つまり,なぜ甲子園やパラリンピックは開催できて,他のことはなぜ閉ざされるのだろう.

―― 大規模イベントは公益性が高い?
―― そうしたイベントは,事前準備を含めてかけられているコストが莫大で中止・延期が難しい?
―― 多くの企業を巻き込んでビジネス化されているから中止・延期が難しい?

こうした回答パターンは,開催を正当化するには弱そうだ.では,どう考えればいいだろうか?
各所の経営者や運営管理者の立場に立てば「感染リスクのコントロール可能性」に違いがあるから,と考えるのが自然かもしれない.つまり,甲子園やパラリンピックは,市中のイベントや施設よりも,感染対策がしやすいと考えられている,ということだ.

一見,甲子園やパラリンピックは,出場者を含む開催現場に関わる人の数が極めて多いから,感染リスクが高いように思える.甲子園でも先日閉幕したオリンピックでも,大会関係者から陽性者が出た.しかし,甲子園は関係者のみの入場だし,パラリンピックは無観客開催になって現場にいるのは関係者ばかりで,基本的には不特定多数の人はいない(はずだ)から,会場内の感染予防対策は講じやすいはずだ.一方で,市中のイベントや公共施設は,甲子園等と違い,不特定多数の人が参集し,感染リスクがコントロールしにくいのかもしれない.

そのあたりのことを思考実験してみたい.
なお,以下のことは妥当な科学的根拠のない素人考えだから信用してはいけない.あくまでも思考実験として考えて頂きたい.

イベント等で人が集まることに伴う感染リスクは,参集する人の数を x とし,人から人への感染率を a とした場合,ax となる.多くの人数が集まる甲子園等の方が感染リスク ax の値は大きくなるように見える.
しかし実際には,参集した人全員が陽性者ではないから,その時点での全国の陽性者率 b% から実際に参集した人の内の陽性者数 0.01ab が算出される.そして,その人たちに対するPCR検査等による陽性者フィルタリング率 c%(100%-c% の陽性者はすり抜けてしまう)が効くから,すり抜ける可能性がある陽性者数は 0.01ab(1-0.01c) となり,その人たちが x という感染リスクを有しているから,総合的な感染リスクは,

0.01abx(1-0.01c)

という算出式で求められる.
例えば,参加者数 a=10,000人が集まるイベントで,事前のPCR検査要請や当日の厳しい体調・体温チェック等を実施して陽性者フィルタリング率 c =95% が達成できる(つまり陽性者の5%は陽性のまますり抜ける)なら,上述の式に数値を代入すると全体の感染リスクは,5bx になる.一方, a=1,000人集まる市中イベントの陽性者フィルタリング率が当日の検温だけで c=40% しかなければ(陽性者の60%は陽性のまますり抜ける),6bx になる.1,000人イベントの方が感染リスクは大きいように見える.

しかし,この算出式ではまだ不完全だ.
フィルターに漏れた人 0.01ab(1-0.01c) が全員感染させるリスクを持つのではなく,現場では,三密を避けてもらうための何らかの行動制限が課せられる.現場での感染リスク行動者削減率 d% (つまり,人流や密集等の行動制限がかけられずにリスクの高い行動を取ってしまう人は 100%-d% いる)が効く場合,0.01abx(1-0.01c) に (1-0.01d) が乗じられた値が総合的な感染リスク値になるはずで,算出式は,

0.01abx(1-0.01c)(1-0.01d)

となるはずだ.
この式で計算すると,陽性者フィルタリング率 c=95%,感染リスク行動者削減率 d=90% の a=10,000人のイベントの感染リスクは,0.5bx となる.一方,陽性者フィルタリング率 c=40%,感染リスク行動者削減率 d=20% の a=1,000人のイベントの感染リスクは,4.8bx となる.1,000人イベントの方が感染リスクは相対的に一層大きくなる.

この算出式の意味するところは,イベントの参加者・関係者総数が問題なのではなく,陽性者を発見するフィルターをできるだけ厳しくすることと,感染リスクの高い行動をする人をできるだけ少なくすることが感染リスクを決める,ということだ.

甲子園やパラリンピックが開催できて,市中のイベントや公共施設が閉鎖される違いは,フィルタリングと行動コントロールに投入できる人や機材といったリソースの差によるのかもしれない.
つまり,地方都市でも,フィルタリングと行動コントロールに従事するスタッフと機材を増やして,スタッフの感染予防対策をしっかりと講じた上で感染予防業務を完全に組織化することができれば,甲子園やパラリンピックと同様にイベントが開催できたり,公共施設が開放できるかもしれないということだ.

ちなみに,先ほどの1,000人イベントの感染リスクを 10,000人イベントの感染リスク 0.5bx と同等にするには,陽性者フィルタリング率 c=80%,感染リスク行動者削減率 d=75% で十分だ.10,000人イベントほどの厳密なリスクコントロールは必要ない,ということになる.(あくまでも素人が立案した不完全な算出式から導き出したものだから,絶対に鵜呑みにしてはいけない!)

新型コロナウィルスの変異株(デルタ株)は感染リスクが高いという.つまり,変異前よりも a の値が大きいということだ.コントロールできたとしても感染拡大は止められないかもしれない.
また,甲子園やパラリンピックの関係者が市中を移動することや,大規模イベントのお祭り感が飲み会や外食等を誘発して市中の人流を増やす可能性はもちろんある.私の素人考えではそうした負の波及効果のすべてを計算に入れることができないから,結局のところ,感染リスクの総量は分からない.

しかし,地方都市でもすべきことができれば,まだ打つ手はあるのではないかと思うのだ.
資金がないから感染予防対策が十分にできないということなら,今までにないところからの資金調達を考えるべきだろう.
人が足りないなら集める方法を考えるべきだし,自前でPCR検査や精確な体調チェックができないなら,協力してくれる機関を見つけるべきだろう.
「できることを考え,協働の幅を拡げる」という取り組みが,ウィズコロナの社会に求められるのではないだろうか.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。