定点観測

まちを変える、まちが変わる(序)

地域活性化やまちづくりに関わる人たちは,少なからず,まちを変えようと努力している.しかし,その試みのゴールは遠い.まちは変わりづらい.

この『LIFES』も,スポーツまちづくりに関わる物語を集積し,そこから経験知を産出することで,スポーツまちづくりを前進させようとする試みのひとつだ.しかし,易々とスポーツまちづくりは動かない.

わたしたちは,まちを変えることができるのだろうか.
そして,まちが変わるとしたら,どのようなプロセスを経て変わっていくのだろうか.
このことについて,何回かに分けて,頭の中にあることを整理してみたいと思うが,考え始める前に,まちをどう考えればいいかを考えたい.

まちとは,何だろう?どのように説明できるだろうか.
説明するために使わないといけない要素は,人間,人工物,自然,システム,そして,それらによって育まれた文化だろう.

人間について ―― まちは,まちに暮らす人たちの生活,まちに関わる人たちの行為によって成り立っている.まちは人の意識と行為がひとかたまりになった空間だ.社会学や経済学などが,まちの中の人間を理解しようと研究対象にしている.
人工物について ―― 家屋やビル,商業施設,公園やスポーツ施設といった人が生活を営むための建築物,人が移動するための歩道や車道,鉄道,空港とそこを行き来する移動車,まちでの生活を支える物だ.建築学,社会工学などが研究対象にしている要素だ.
自然について ―― 山林や河川,海洋,まちなかの緑地,空気,生き物は,まちでの生活を決定づけるものだ.地理学,自然環境に関連する山林学,海洋学,大気学,気象学,地震学,火山学,津波学などが研究対象にしている.
システムについて ―― まちの生活を安定的に成立させるシステムには,法制度や各種の規定,政治や行政の権力執行,企業経営,地域生活に関わる行為規範や前例によって成立している明文化されていないルール,まちに暮らす人たちの習慣などを含む,人と人工物と自然,文化のつながり方を決めているものだ.社会学や経済学に加えて,法学,政治学,経営学,教育学などが関わる.
文化について ―― まちに暮らす人たちに共有されている生活様式や行為規範,話し方(方言など),語り継がれる歴史物語,祭りや伝統的・宗教的な儀式,スポーツや文学,芸術,音楽などの活動は,人間と人工物と自然の関わりによって構成された文化だ.考古学や人類学,民俗学,歴史学,言語学,文学,芸術学などが研究対象にしている.

このように,まちを構成する要素(人間,人工物,自然,システム,文化)はバラバラに研究・開発されている.それらひとつひとつが理解できたとして,まちそのものは説明できるだろうか.むしろ遠のいているのではないだろうか.

まちを変える、まちが変わる②:変容の連鎖 に続く)

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。