まちを変える、まちが変わる③:変容の連鎖を引き起こす
まちを変える実践,つまり,まちを構成する要素の連鎖的変容の意図的な仕掛けは,論理的には,すべての要素をトリガーにできる.
そして,トリガーを選ぶ条件は,①”引き金を引く”(=トリガー要素を変容させる) のが比較的容易であること,②他の要素をポジティブに変容させる可能性が高い,という2点だろう.
トリガーになり得る有力候補は,人間,人工物,自然,システム,文化の内,どれだろう.
変容可能性の高さ(条件①)から考えると,システムか人工物ではないだろうか.
規制緩和や特区制度はシステムがトリガーになる一例だ.また,エリアの再開発や路面電車の環状化,歩行者天国やシティサイクル,スモールモビリティの導入などは人工物がトリガーになる例だ.国や自治体が「えいや!」と動けば,システムも人工物も変更することが可能だ.
波及効果の大きさ(条件②)から考えると,トリガーは人間だろう.
多くの人々のまちとまちづくりに対する意識やライフスタイルを変容させたり,行動を変容させることで,政治や行政,法制度,習慣といったシステムの変更が起こり得る.まちのデザインや都市計画といった人工物の更新も進むかもしれない.しかし,人間の意識や行動を変容させるのは難しい.
では,まちを変えるためのトリガーは,システム,人工物,人間のどれがいいのだろう.
システム変更がもたらす変容の連鎖は,システム内の他の下位要素の変更(法律改正が条例改正を導く,など)か,もしくは人工物の更新(特区制度の導入でドローンが飛び回る,など)にしか届かないが,人工物の更新がもたらす変容は,人間に届く可能性が高い.まちの風景,まちでの生活の仕方,まちなかの移動・回遊の仕方が変わると,そこに暮らす人たちの生き方(ライフスタイル)が変わるはずだ.
つまり,システムの変更+人工物の更新→人間の変容,というのが,まちを変えるためのトリガー・パッケージになるのではないかと考えられる.これが意味することは,3つの要素が連鎖する,ということだ.そして,人間の意識・行動の変容にまで連鎖する必要がある,ということだ.
一方で,変容の連鎖が届きにくい要素は,自然と文化ではないだろうか.
言うまでもなく,自然環境は破壊することは簡単だが,まちでの生活を豊かにするまで育てるには時間がかかる.同じように,文化も長い時間をかけて醸成されるものだから,一朝一夕には更新できない.
しかし,自然と文化を変えるところまで変容の連鎖を続けることができたら,まちを変える営みはひとつの到達点に達したと言えるかもしれない.きっと,まちでの生活の豊かさは持続可能なものになっているだろう.
では,スポーツは,まちにどのような変容の連鎖をもたらし得るだろうか.
(まちを変える、まちが変わる④:スポーツがもたらす変容の連鎖 に続く)