定点観測

気軽にキャンプできるまち

コロナ禍でキャンプが流行っているようだ.
「キャンプ 番組」と検索すると,有名タレントが出演するものが4つも出てくる.
コロナ禍以前からグランピングが注目を集めていたことを踏まえると,宿泊を伴う旅行の自然回帰は以前から土壌としてあって,そこにコロナ禍で三密を避けたいという必要感が,人々を活発に自然に出かけさせているのではないかと思う.そういう時流に乗った人が,人工物が何もないところに大きなテントを張って寝袋で何泊もするようなハードキャンパーにはいきなりなれないから,日帰りのデイキャンプや電源も水道も電波もある便利なオートキャンプ,ひとりで自由に過ごすソロキャンプといった気負わないライトなキャンプが拡がりを見せているのは腑に落ちる現象だ.

(一社)全国グランピング協会は,2019年時点での国内旅行消費額17.0兆円の内,グランピング消費額はおよそ3,094億円と推定している.お手盛りで多少大き目な推定だとしてもメディアでの取り上げられ方や地元・岡山での拡がりを踏まえるとそれくらいの額にはなりそうだと思える.また,国内には約280か所のグランピング施設がある一方で,キャンプ場は2,000か所を超えるから,キャンプを伴う国内旅行のマーケットはもっと大きくなる基盤を持っているし,コロナ禍も後押しして,気軽な近場でのキャンプの市場規模も大きくなりそうだ.
矢野経済研究所によると,そうした「ライトアウトドア」の市場規模はアウトドア市場全体の55.3%を占める2,856億円にも上るという.

ライトアウトドアは,年齢に応じた楽しみがある.子どもたちはリスクの少ない自然の中で遊べるし,大人はいわゆる「キャンプ飯」を楽しんだり,ハンモックやテントでリラックスすることができる.自然の中で趣味に興じることもできるだろう.
また,時間や季節の移ろいに応じて風景や気候が変わるから,いつでも飽きることなく楽しむことができる.朝は朝露の清々しさ,昼はまったりと贅沢な時間,夕方はオレンジ色の空の下で夕食,夜は星空の下に焚き火の炎がゆらめく.晴れていればもちろん過ごしやすいが,雨の日はそれはそれで静かな時間が流れる.春は花,秋は紅葉を愛でながら過ごしやすいけれど,夏は木陰で避暑しながら冷えたビールを楽しむことができるし,冬は焚き火の近くで温かいスープを飲む,なんてことができる.
運動やスポーツの類ではないけれど,健康的だし,年齢も季節も時間も限定しないという絶大な包容力は,アウトドアならではの強みだろう.生涯スポーツならぬ,生涯アクティビティだ.

日常生活に近いところで気軽にアウトドアが味わえるとなると,大都市よりも地方都市の方が有利だ.アウトドアレジャー向けの山林や水辺の公園を整備しようとすると広大な土地が必要になるし,そこから眺められる風景がビル群ばかりでは興ざめだから,借景的に山々や川,湖や海があってほしいということになると,いよいよ都市部では難しい.
しかし,日常的に豊かな自然に囲まれている中山間地域や海辺地域に暮らしているとアウトドアレジャーの価値は相対的に小さくなるだろう.アウトドアが非日常的な意味をもつほどに日常生活は都市的なものである必要がある.そういう意味で,都市的エリアと自然環境が隣り合うような都市デザインが必要かもしれない.無尽蔵に都市的エリアを横に拡げる(スプロール化させる)のではなく,どこに暮らしていても自転車で一時間弱,車で30分弱でアウトドアに出られるようなサイズにまちをコンパクト化してくれると,過ごしやすいまちになりそうだ.

コロナ禍で人口集中エリアの生活リスクが浮き彫りになった.
ライトアウトドアのような生涯アクティビティの可能性という観点で暮らすまちを選ぶ,という時代がそこまでやってきているかもしれない.

髙岡 敦史

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髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。