定点観測

アウトドア・スポーツは売っちゃダメ

アウトドア・スポーツは,自然環境を媒介として「するスポーツ」と「支えるスポーツ」を自給自足的な融合を実現させる可能性があるのではないかと思う.
自給自足的融合とは,「自分たちのために,自分たちのフィールドである自然環境を整備する」ということだ.

アウトドア・スポーツは,場として利用する自然環境の豊かさや奥深さ,美しさを活動動機の大きな源泉にしている.
自然の利用者としてのプレーヤーは,そのスポーツをするだけではなく,自然環境へのインパクトをできるだけ小さくし,あるがままの姿で留めようと心がけるものだ.(そうでない不届き者もいるが)
なぜなら,自然が豊かであり続けることが,自身のアウトドア・スポーツ活動の質を高め,持続可能なものにするからだ.
アウトドア・スポーツ活動がフィールドとしての自然環境の豊かさに依存しているという考え方が腑に落ちたプレーヤーは,環境保全活動としてのフィールド整備にも参加するのではないだろうか.

スポーツ活動が商品化されて久しい.
種目専用のウェアや用具はもちろんだが,活動空間も有料化されていて,どんなスポーツをするにもお金を支払う必要がある.
そうなると,プレーヤーは消費者になる.スポーツ活動をする権利を購入することで,その場を一時的に占用する権利が得られる,と考えるようになる.
有料化されたことで経済循環が生まれ,空間を経営する組織へお金が入ってくるようになり,清掃や整備にお金をかけることができるようになる.
プレーヤーは,空間の利用料金に清掃・整備の外部委託費が含まれていると考えるようになり,いよいよスポーツ活動だけをしていい権利を獲得することになる.

このことがスポーツフィールドとしての自然環境で起こったらどうなるだろう.
アウトドア・スポーツのプレーヤーの人数と環境保全活動をする人数は,おそらく前者の方が多い.
そして,アウトドア・スポーツが自然環境にもたらすインパクトは,スポーツ施設の清掃・整備のように簡単に元に戻るものではない.アウトドア・スポーツが商品化されたら,あっという間にフィールドとしての自然環境は消えてしまうだろう.そして,もうそこでは二度とアウトドア・スポーツができなくなってしまう.

アウトドア・スポーツの活動空間は,その一時的占用を商品化してはいけないスポーツだと言えるかもしれない.自然環境に足を踏み入れるプレーヤーは,できる限りインパクトを小さくし,そして活動の前後に環境保全活動に参加する必要がある.

むしろ,商品化すべきは,環境保全活動への参加権ではないだろうか.
自分自身がスポーツをしている自然環境が,どのような植生や水流・海流を持ち,どのような生き物が生息しているのか,あるいは周辺地域住民がどのように利用してきたのか,といった自然環境そのものを知ることも,アウトドア・スポーツの価値にできると思う.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。