スポーツと地域

シリーズ「どう解く?部活動の地域移行という超難問」(4)解き方

 部活動の地域移行関係の多くの会議に委員長やコーディネーターの立場で出席したり,あるいは多様な方々と対話してきたことで,私の中でこの難問をどのように考えて解けばいいのか,という解法イメージが出来つつある.

 今もなお,多様なスポーツ観や部活動観,地域移行論が存在していて,難問解決の収束点は見えない状況だ.しかし,地域移行オペレーションの個別具体的な課題(「指導者がいない」,「受け皿になるクラブがない」,「お金がない」など)を一つひとつ議論していても,難問を覆う霧は晴れない.
解かなければいけないこの難問全体の解き方(どういう感じで解けばいいのか?)や方向性(どんな回答になりそうか?)を考えるための議論が必要だろうと思うので,私が現時点で到達している解き方や方向性を提示してみたい.
ぜひ,それぞれの現場での議論のタネにしてほしい.

 長文で説明するより,端的に示した方が議論しやすいと思うので,各ポイントに含んでいる意味を箇条書きにしていく.

この問題は,「部活動の地域移行」問題ではなく「地域スポーツ,地域クラブの創設・拡大・再編成」問題だ

 ・「部活動がやってきた活動」をそのまま地域に水平移動させるのではない.
 ・「地域スポーツ,地域クラブの創設・拡大・再編成」がすべきことの中心.
 ・しかし,子どもたちがスポーツ・文化活動を通して育つことは部活動と同様に最重要目標.
 ・既存の部を地域クラブにするだけでなく,学校では設置できない種目・領域も用意して「選択肢が増えた!」となる必要がある.
 ・公式試合で勝利することを目指すクラブだけでなく,生涯スポーツとして楽しみ続けるクラブも選択肢として用意する必要がある.複数の種目・活動に参加できるということも必要.
 ・アスリートを目指すための最適な環境とそのアクセシビリティは別途,高く保障する必要がある.
 ・中体連主催の大会だけでなく,多様で数多くの試合(ゲーム)経験を保障する必要がある.
 ・学校教員が担ってきた教育的な指導に加えて,より専門的で適切(合理的)な指導が受けられるようになることが必要.
 ・プレイヤーとしての子どもたちに対して,大人の役割は「指導者」だけではない.「新たな仲間」にもなれるはず.

この問題は,中学生年代のスポーツ・文化活動環境を整える「まちづくり」の問題だ

 ・施設,指導者,財源,適切・効果的な活動のあり方などの「これまで」を疑い,再構築すべきことはたくさんあるはず.
 ・既存施設はもっと効果的・効率的に利活用できるはず.
 ・指導者や仲間はまだまだ発掘・育成できるはず.既存の社会的ネットワークと繋がって有効活用しよう.
 ・財源は多様に探索できるはず.
 ・スポーツ・文化活動の内容や質を,昭和スタイルから令和スタイルに.
 ・こうしたことは学校だけではできない.地域の力の結集が必要になる.
 ・「持続可能性の確保」がすべての課題を解決する上で大切にすべきポイントだ.

地域指導者と学校教員が,子どもたちをともに育てるという関係づくり・体制づくりが必要だ

 ・地域の大人と学校教員が,子どもたちを間にはさんで,ともに育てる関係構築が必要.
 ・学校での子どもたちの育ちと地域での子どもたちの育ちに,高いレベルでシナジーを生む学校教員と地域の大人の関係づくりが必要.
 ・もしそれが実現できたら,学校にとっては「地域に開かれた学校づくり」と「地域学校協働」につながる.
 ・もしそれが実現できたら,地域にとっては「地域の教育力の向上」と「生涯学習の推進」につながる.

地域移行後のスポーツ・文化活動は,「習い事・塾」ではなく「クラブ」であることが重要だ

 ・子どもたちには,未来のスポーツ・文化を継承・創造していく主体に育ってもらう必要がある.
 ・スポーツ・文化の継承・創造主体になるためには,自ら活動を生み出し,改善し,継続させていく経験が必要で,その場は主体的・自治的な「クラブ」が最適.
 ・口を開けて待っていれば誰かが教えてくれる「習い事・塾」では主体は育たない.
 ・大人は子どもたちに「教える」ためだけにいるのではない.クラブの「仲間」になれるはず.
 ・大人がスポーツ・文化を継承・創造する主体になれているか,自己評価が必要.

受益者負担は,実質無償化やセーフティネットとセットで取り得る最終手段だ

 ・部活動も負担ゼロではなかったし,実質的に受益者負担だったが,地域移行後に一層負担が増えるリスクがある.
 ・資金循環で実質無償化を目指すか,あるいは何らかのセーフティネットを用意することなく受益者負担を前提にすると,経済格差との連動がさらに加速する.これは絶対に避けなければいけない.
 ・子どもたちが育つスポーツ・文化環境づくりに資金が集まる工夫(新しいビジネスモデルの構築)が必要.
 ・企業等からの「寄付・協賛」に頼るだけでは資金調達は持続しない.財務的・非財務的なリターンが見込める「投資」にしていく必要がある.

 地域移行の実践研究が進むと,個別具体的な課題はさらに増えてくるだろう.
 しかし,対症療法では未来は創れない.常に根本的な考え方に立ち戻って考える必要がある.
 根本的な考え方を整理していく時間は,まだ少しはある.
 今回示した解法イメージも,時間を経て更新されていくだろうと思う.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。