定点観測

“部活動の地域移行” 再構築②:子どもと大人とまちが成長する部活動

“部活動の地域移行” 再考②:部活動変革は必要“部活動の地域移行” 再考③:コンセプトは? を踏まえて,部活動改革のコンセプトを考えてみたい.

様々な方と対話する中で,コンセプト立案に際して考慮に入れたいと思ったのは,次の6点だ.
・教員の部活動指導に関わる負担を減らすこと
・生徒のスポーツ種目選択の可能性を拡げ,地域間格差を小さくすること
・合理的なスポーツ活動ができる状況を確保すること
・生徒の豊かな学びが保証される状況を確保すること
・地域に開かれた学校づくり,社会に開かれた教育を教育課程外の部活動にも適用すること.
・受益者負担や公的資金に依存せず,持続可能な財源を確保すること

これらをかき混ぜて,整形すると(いろいろ端折っているが),

「部活動をプラットフォームにした,子どもと大人とまちが成長するまちづくり」

というコンセプトが浮かんできた.

単独指導・単独引率可能な部活動指導員の導入は,教員の負担軽減上,とても重要だ.
そこで必要になるのが,顧問教員との密なコミュニケーションと指導方針に関する共通理解だ.また,部活動指導員導入に際して,①人材探索・確保,②報酬の財源が課題になっている.
これらを一気に解決する方法は,部活動全体をマネジメントする人材(「部活動マネジャー」)の活用ではないだろうか.
顧問教員,部活動指導員,そして部員(子どもたち)をつないで健全なコミュニケーションを確保したり,これまで顧問教員が担っていた事務仕事を代行したりするだけでなく,地域内外のスポーツ・ネットワークに入り込み,人材確保をスムーズにしたり,部活動指導員の研修機会を企画・運営したり,財源確保(資金調達)のための営業をするイメージだ.部活動マネジャーは,地域に顔が広い元校長でもいいだろうし,地域おこし協力隊でもいいかもしれない.

受益者負担や公的資金に頼らない財源の確保は,地元企業からのサポートを受けたい.
これまで,部活動に必要なお金は,家庭から集めた生徒会費を部に配分したり,各部ごとに集金したりする他,行政から学校に配分される公的資金が充当されてきた.しかし,部によって額が異なっていたり,貧困世帯に重くのしかかっている現実がある.また,先に書いた通り,行政も財政難だ.

そこで,地域内に事業所をもつ企業にお金を出してもらいたい.
寄付でもいいのだが,それでは景気に左右されるし,何より毎年寄付のお願いに回るのは大変だ.
そこで,企業ブランディングや融資優遇等に活用できる「〇〇市子どもスポーツ・文化支援企業」(仮称)の認定制度を創設し,自治体が受け皿になって投資として集めるというのはどうだろう.

子どもたちが自由に,学び豊かにスポーツや文化活動のできる地域になれば,暮らし続けたい地域になるはずだ.人口流出を食い止めるだけでなく,移住や出生率の増加に繋がれば最高だ.また,多くの地域住民が暮らし続けたいと思える地域は流入希望者を増やすから地価が上がる.地域内に土地建物を持つ企業は資産増が見込めるかもしれない.

地域の子どもたちの学び豊かなスポーツライフとそのためのスポーツ環境づくりは,暮らし続けたいまちづくりに直結するものだろう.
そうだとすれば,部活動に対する企業支援は,広告宣伝のためでも,CSRのためでもなくなる.それは,マーケットと自社資産を育てる投資であり,社員の地域での暮らしを豊かにするまちづくりのためだ.また,「インクルーシブ部活動」が実現すれば,子どもたちのスポーツ環境づくりは自社社員のためのスポーツ環境づくりに他ならないから,健康経営や福利厚生に関する支出になるはずだ.だから,これを「民間からの資金調達」とか「民間資金活用」とは呼びたくない.

地元企業の社員を含む地域住民も参加するインクルーシブ部活動は,生徒たちを中心にした自治で運営されるものになってほしい.
部長は生徒でいい.大人たちは,サポーターとして,あるいはファシリテーターとして子どもたちを支える.その時の大人たちの意識は,顧問教員と連携して子どもたちを学ばせる,というものだ.
大人メンバーの中には,その種目の経験者や指導者もいるだろう.しかし,子どもたちから求められない限り,コーチングする必要はない.メンバーとして一緒に楽しめばいい.

年齢も経験も異なる多様なメンバー全員が楽しむ,というのは難しい.だからこそ,子どもたちの学びは大きいし,子どもが考えることを「待ちながら」ファシリテートする大人にとっても成長の機会になるだろう.支援企業は社員を部活動ボランティアとして参加させ,研修の機会にしたらいい.保護者としても,地域に暮らす市民としても多くの学びがあるはずだ.

今後も部活動改革について様々な方々とお話することになるし,現実は動き出している.
発想が拡がり,深まったら,また書くことにする.

※過去の記事
部活動廃止?(上)ー部活動改革の最先端ー(2021.10.08)
部活動廃止?(中)ー部活動廃止は世紀の愚策か?悩める学校の救世主か?ー(2021.10.09)
部活動廃止?(下)ーどう考えるか?ー(2021.10.10)
部活動廃止?(番外)ー部活動新構想ー(2021.10.11)
“部活動の地域移行” 再考①:リスク(2021.10.24)
“部活動の地域移行” 再考②:部活動変革は必要(2021.11.02)
“部活動の地域移行” 再考③:コンセプトは?(2021.11.03)
“部活動の地域移行” 再構築①:インクルーシブ部活動(2021.10.25)

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。