定点観測

ジブリなスポーツ④最終回

今回は,シリーズ「ジブリなスポーツ」最終回.
第1回第2回第3回はこちら)
自然を取り込むことでスポーツの楽しさが拡がるという提案.

高度化した競技スポーツは自然環境をノイズとして捉えている.競技スポーツは無菌化に向かい,自然を排除する巨神兵になっているように見える.
しかし,実際のスポーツは自然に影響を受けていて,それはそれで面白い.
屋根のないスタジアムで行われるサッカーの試合では,風の強い時間帯や陽の光が正面に来る時間帯にすべき攻守の戦術はそれなりに考えられている.雨上がりのピッチはボールがよく走るから,グラウンダーの速いパスが有効であることはよく知られている.目の肥えたファンもそのことをよく分かっている.

子どもたちが広場でするスポーツはもっと楽しいことになる.
水たまりがあちこちにあったり,雪が積もっていたり,地面がデコボコした広場でのサッカーは,作戦を考える楽しさがある.風が吹く中でのバドミントンは,シャトルが流されるけれど,その場でゲームが楽しくなるルールを考え出す楽しさがある.

自然と共生した方が,スポーツは楽しさを拡げられるのではないだろうか.
既存の競技スポーツに自然を盛り込んで拡張した例が,ビーチバレーボールビーチサッカーオープンウォータースイミングトレイルランニングなどだ.こうしたスポーツ種目にとって,自然はプレーに悪影響をもたらすものではない.うまく対応し生かすことも重要なパフォーマンスのひとつだ.

また,スタジアムは暑い地域と寒い地域とで特性が違う.アウェイでの試合にまで足を運ぶサッカーのサポーターは,その土地ならではの気候も味わっている.その土地の風土を含んだスポーツ施設がデザインできたら,そこで繰り広げられる試合にはその地域でしか味わえない個性が生み出せるかもしれない.そんな例が愛媛県今治市にある.FC今治が進める「里山スタジアムプロジェクト」だ.
里山スタジアムは,地域住民が日常的に集う場になることを目指しているという.そこで採用されている設計思想は,スタジアムは外界から閉ざされた空間ではなく,外界と相互作用する里山のような場所になるべき,というものだ.
スタジアムが完成したら,FC今治のホームゲームには季節によって変化する海と里山の匂いが漂うだろう.冬は寒風吹きすさぶだろうが,それも季節ならではの風景だ.人間としての選手とサポーター,そして今治の自然がサッカー観戦空間をともに生み出す風景が見られるかもしれない.

ジブリが描いたように,人間にとって自然はコントロールするものではなく,共生するものになっていくだろう.きっと,スポーツもそうなるのではないかと思う.
スタジオジブリが,スポーツを描いたら…,スタジアムをデザインしたら…,と想像するとワクワクする.
ジブリなスポーツ,完.

髙岡 敦史

WRITTEN BY

髙岡 敦史
スポーツまちづくり会社・合同会社Sports Drive 社長 岡山大学大学院教育学研究科 准教授、博士(体育科学) スポーツ経営学を専門とする研究者であり、スポーツまちづくりの現場に多く参画している。近著に『スポーツまちづくりの教科書』(2019年、青弓社)。